第十一回 学童保育はなぜ脆弱か
船橋市は、民間の学童保育(共働き家庭などの小学生を放課後に預かる事業、船橋市通称:放課後ルーム)へ運営補助金を含んだ9月補正案を撤回した。上程した予算案を撤回する事態は新聞各紙で取り上げられた。
記事では「昨年度は全国の自治体でワーストとなった放課後児童クラブの待機児童解消を目的に、同クラブへの運営補助金を計上したものの、市議の間で異論が出ていた」(東京新聞2024年9月10日付)。
待機児童対策が急がれるが、議会からの反対意見が相次ぎ、民間活用はペンディングという論調であった。
船橋で起きたねじれ現象
市は、昨年度の学童保育待機児童数「ワースト1位」を受け、2025年度の待機児童解消を目的とした「放課後ルーム待機児童解消プラン(緊急対策)」を策定したが、当初、議員向けに報告したのみで、審議会などでも報告どころか、学童保育待機児童問題に触れてもおらず、危機感が感じられない中での突如の民間活用が提案された。
船橋市では前市長の市長公約により、2000年頃から混乱を経て民間から公設公営に切り替えた経緯がある。一方で、この間、保育所は待機児童解消のために、公立園は増やさずに、私立園を5倍以上も増やして受け入れて待機児童解消をすすめてきた
市は、学童保育を公設公営に切り替えて、これまで維持してきた理由について「こどもたちのために、よりよい環境を確保することを目的として、公設公営による運営に切り替えたものであり、現在でも、その方針に変更はなく維持している」と強調する一方、「民間学童の活用は待機児童の居場所の選択肢となる」とした。
学童と保育所の違い
学童保育と保育所では、法的に位置づけが異なる。保育所は、児童福祉法第7条で「児童福祉施設」として定め、同法24条では「市町村の保育実施義務」が求められ、最低基準がある。
他方、学童保育は、同法6条で「放課後児童健全育成事業」として位置づけられるが、同法21条で市町村には「利用の促進と努力義務」があると規定されるにとどまっている。
2015年施行の子ども・子育て支援法に伴う児童福祉法改正を受けて、2014年には厚生労働省令「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」、2015年には同「放課後児童クラブ運営指針」が策定され、ようやく指導員の資格と配置人数は「従うべき基準」が定められたが、その他の設備などについては「参酌」基準となっている。
さらに、改正児童福祉法第34条の8の2で、市町村が「設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない」とし、定めるにあたって「従うべき基準」を「参酌するもの」とされている。
つまり、法的に学童保育は保育所と異なり「児童福祉施設」ではなく「事業」であり、自治体によって運営に差が生じている。
このため、自治体や学童保育の現場により実施条件、保育内容は様々である。民間学童保育事業者(運営主体)は市町村以外のものは市町村への届け出が必要だが、「子ども・子育て支援新制度」そのものが新成長戦略の一環であることから、運営主体には届け出だけで制約はなく、営利企業も運営に参入することができる。
公設公営を守るために必要なこと
船橋市が公設公営に切り替えた2000年以降、児童福祉法改正などにより前進はしたが今もなお、学童保育には保育の質、労働環境、少ない補助金など、多くの課題がある。法的に学童保育制度が脆弱であるから、船橋市は「こどもたちのために、よりよい環境を確保することを目的として」公設公営にし、民間の流れに抗って維持してきたはずである。
私は、他自治体が民間に任せる中でも、公設公営を維持してきたことは船橋市が誇れることだと思っている。そもそも、民間学童の活用が待機児童対策になるのだろうか。今でも民間学童は希望すれば空きがある施設もあり、保育料は割高であるがニーズに沿う家庭は利用している。さらに船橋市には、すべての小学校内に、登録すれば無料で放課後から17時まで利用できる放課後子供教室(船橋市通称:船っ子教室)や児童厚生施設(船橋市通称:児童ホーム)が21カ所ある。まずは、これらの資源を活用し、子どもと子育て世帯のニーズに沿った充実を求めたい。
現在は各自治体による待機児童対策が求められるが、本来であれば国主導で、不安な中で放課後を過ごす子ども、子どもを心配しながら働く子育て世帯に目を向け、危機感を持ち、子どもの最善の利益を第一に、保育の質を担保した待機児童解消が求められている。
小学校の隅にひっそりとある放課後ルーム