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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第八回 延長保育は長ければいい?

 選挙でも原点を忘れず
 統一地方選が終わり、無事再選を果たすことができた。父母会の仲間にも選挙活動を支えてもらった。
 私の大きな目標は、子育て世代の声を政治に届け、共に政策実現を図ることだ。
 2019年の初挑戦のとき、末っ子はまだおむつをしていた。選挙期間中も朝は保育園と学校への送り出し、夕方はお迎えというサイクルは変わらない。ただ、選挙活動に子育てを持ち込むことに対して、支援者からは「甘い」という声も上がったが、あくまでも子どもの日常を優先させた。
 今回の選挙でも、平日昼間の授業参観や保護者説明会にも参加して、最後まで子供たちの日常という原点を崩さなかった。
 子育て世代の議員を増やすためにも従来型のどぶ板ではないやり方で当選する必要があったし、現役子育て議員が増えることが、子育て環境を良くすること、子どもたちの未来のためには必要だと示したかった。
 実感として、子育てをしている議員がいる父母会活動は、行政との交渉や情報量も全く違った。子育て世代の声、行政の考え――双方が意見交換し、議論することで、引き続きより良い子育て環境をつくっていきたい。


育児と選挙の両立で取材を受けた(2019年4月24日付読売新聞朝刊)

 日体大体操部を招聘し大規模イベント
 コロナ禍はSNS中心だった父母会活動。LINEでも運営はできたが、父母会活動で最も大切な親同士のつながり、子ども同士のつながりは途絶えていた。
 新型コロナウィルスの5類移行を受け、紙芝居イベントに続き、大規模イベントを企画してみた。イベントの目的は、父母と子どもの交流と父母会の啓発だった。
 日本体育大学体操部出身の父母が企画提案からアレンジまで、さらにはご自身で親子体操教室まで企画してくれた。父母にとっては思いがけず、世界大会で発表するほどの演技を目の前で見ることができ、また、子どもたちは大学生と交流でき有意義な時間になった。大成功だった。
 子どもと一緒に汗をかくということは意外と少ない。また、子どもにとってお友達と保育園以外の場所で過ごすことは貴重な経験になる。今後も続けていこうとみんなで話した。


大成功だった日体大体操部のイベント(筆者撮影)

 延長保育をめぐって:統一要望書を市に提出
 父母会連絡会では毎年、船橋市役所に2種類の要望書を提出している。ひとつは統一要望書、もうひとつは各園要望書だ。統一要望書は、船橋市全体の保育の向上を目指す要望書であり、各園要望書は、主に園内設備や運営などについての要望になる。この2つの要望書の提出が、連絡会にとって最重要の活動といえる。全国的に見てもきわめて珍しい取り組みだと自負している。
 統一要望書への各園からの要望は以下の通りだった。
・副食費の無償化
・医療費の無償化
・保育料の減免にかかわる第3子の定義の改正
・延長保育時間の19時以降への変更
・オムツのサブスク化など
 各園から上がった要望から、盛り込む事項を執行部内で検討し、統一要望書を仕上げていく。保育にかかる予算にはじまり保育所の過去5年間の事故報告件数などのデータも求めている。
 検討にあたっては、各園から上がった要望をそのまま提出するのではなく、みんなで考えることを大切にしている。例えば「延長保育時間の19時以降への変更」は、毎年、必ず上がる要望だ。
 振り返れば、私自身が7時過ぎから19時まで保育園で過ごす子どもだった。お迎え後に買い物をして帰り、夕食は20時過ぎが当たり前の生活。当時、保育園帰りに友人宅に寄った際、友人のパジャマ姿が不思議だったことをよく覚えている。恥ずかしながら保育園に入ってから幼児は21時前に寝かすのが望ましいとはじめて知った。
 睡眠学者の見解はさらに厳しく、1歳~2歳は11時間~14時間、3歳~5歳は10時間~13時間を推奨している。つまり、6時起床ならば、1歳~2歳は19時まで、3歳~5歳は20時までの就寝が子どもの心身の成長に欠かせない。
 ただ、実践したくてもできない現状が、今の日本社会にはある。開園時間の延長よりも、長時間労働の問題から考えなくてはならない。
 連絡会では、延長保育を要望する前に子どもにとってどうなのか考えて欲しいといつも投げかけている。
 こうして、要望書を通じて、父母は自分の子育て生活を振り返り、考える。
 そして、今の子育て環境に何が足りないのか。どうしたら子育てしやすくなるのか。我が子や周りの子どもたちの健やかな成長のため、どんな支援が必要なのか。話し合いながら気づいていく。


例年11月に市の担当課から統一要望書について、直接説明を受ける(筆者撮影)

 「日常に追われている」「父母会活動は面倒、連絡会は不要」「父母会の時間を自分の子どものために使いたい」――毎年こんな不満が聞こえてくる。
 誰もが時間に追われ、子育てと仕事に奔走し、そう思うのも無理はない。
 しかし、子どもたちが1日を過ごす保育園を守るためには、自分の保育園だけではなく地域や社会全体を変えていかなくてはならず、連絡会や父母会のような地道な活動がどうしても必要なのではないか。

 園ごとのカラーが出る各園要望書
 各園要望書は、各園父母会役員が要望書を仕上げていく。各園要望書では、各園施設の設備が主な要望事項になる傾向が強い。
 父母会役員は毎年変わるため、要望書の作成はみんな初めてだ。そのため、連絡会では毎年、要望書の提出に向けて勉強会を開いて、書き方や園相互の交流を図っている。
 3年ぶりの開催となった8月の勉強会には多くの園が参加し、コロナ禍を経た園生活、イベントや運動会のこと、子どもたちの様子などの意見交換を行った。
 各園の要望は以下の通りだ。
・門扉のオートロック化
・階段付近の安全対策
・トイレの改修
・プール開催基準
・運動量の確保策
・散歩の実施状況など
 船橋には公立保育園が27園あるが、園ごとにカラーが異なる。2~3年ごとに園長が異動になり、それによってまた雰囲気は変わってくる。
 子どもを預けっぱなしにするのではなく、保育園に関わっていく、園の運営にも参加していくことが子どもたちの安心安全な保育園のために必要だと思う。(了)

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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