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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第六回 行政を動かした「声」:おむつ廃棄無償化とICT導入

 2023年度の船橋市当初予算案が可決された。そこには、父母会連絡会にとって十年来の念願だった(公立・・保育園)使用済み紙おむつ廃棄無償化、さらに保育ICTシステム導入費が計上された。

 公立保育園でICT導入へ
 ICT化導入を積極的に働きかけたのは、仕事で保育園や幼稚園を訪問する機会の多い一父母の声からだった。訪問する園では当たり前にアプリなどで園と父母のやり取りがスムーズに行われているのに、我が子の通う船橋市立公立保育園ではノートでのやり取り、出欠連絡も電話という状況が続いていた。
 ICT化が進めば、父母も先生にとっても負担軽減になると声を上げ、連絡会の執行部にも加わり活動を行ってきた。執行部では業者に対してのリサーチ、導入園での聞き取りなどを行った結果を各園父母会とも共有し、アンケート調査を行い、父母の意見を担当課に届けた(図1)。



図1 連絡会だより第4号(2021年)と手書きのノート

 わずか2年程度での予算化の背景には、父母だけではなく多忙な先生方の負担軽減につながること、国の補助金が活用できるなどの後押しが重なった結果であろう。 連絡会が行ったアンケート調査の中には、特に乳児期はノートでのやり取りを希望する声もあった。
 私自身もノート派の一人ではあるが、先生にとって負担軽減となり、余裕が生まれ、子どもと向き合う時間が増えることを何よりも歓迎したい。2024年には全園で運用が始まりそうだ。

 紙おむつの廃棄無償化も実現!
 父母会戦記の第四回では、連絡会がおむつ廃棄無償化を求めて行ってきた取り組みを市との交渉を交えて紹介した。
 実は、執筆する前の定例議会(2022年9月)で、この問題を取り上げると市側に通告したが、要望にとどめた経緯がある。半年前の1月、連絡会と副市長との懇談では、無償化に向けて前向きな返答を得ていたので予算化を期待していたのだが、予算編成が始まる9月になっても無償化への動きは感じられなかった。
 市は、公立保育園だけではなく市内の保育園全体を考える必要があるが、私立園がどのような運用になっているかの把握ができていなかったようだ。

 処分費用はネックではない?
 その後、市は私立保育園などへ使用済みおむつの処理方法について実態調査を行った。調査結果によると、市が追加で補助せずとも、すでに約6割の施設で公定価格と市の補助金で無償廃棄を行っていたことが分かった。残り2割は保護者負担、2割は持ち帰っており、比較的新しい園の多くが無償廃棄を行っている傾向にあった(図2)。


図2 船橋市保育認定課 調査結果 2022年

 厚労省・内閣府が実施した実態アンケート調査(2022年10月)を見てみよう。私立園が使用済み紙おむつを処理する場合の費用補助を行っているのは約1割であり、国の運営費のみで負担しているとの回答が約7割にも上った(図3)。001044137.pdf (mhlw.go.jp)

 


図3 認可保育所における使用済みおむつの処分について(厚労省・内閣府)

 国は、使用済みおむつの持ち帰りがなくなれば保護者にとって負担軽減になり、保育士にとっても負担軽減につながることから、保育所で処分することを「推奨する」とする事務連絡を通知した。(2023年1月 23 日)
 そうなると、私たち(公立保育園)が今まで実費徴収として負担してきた月300円は、本当に必要な実費徴収であったのか疑問が残る。

 知ろうとする努力を!
 国全体で、当たり前に保育園において使用済み紙おむつの無償廃棄がなされることを切に願う。この事務連絡を受けてか、処分費用を新たに園に補助する自治体も出てきているようだ(『保育情報』3月号)。
 船橋市では、公立保育園のみを対象とした使用済み紙おむつ廃棄無償化予算に対し、私立保育園に対しても廃棄費補助を求める請願書が市議会に提出された。
 しかし、各保育所の保育方針(子どもの体調を知るために持ち帰るべきだと考える園や父母もいないとは言えない)や使用済み紙おむつの廃棄費用に対する各園の考え方、おむつの保管場所の有無、布おむつの利用など各園によって状況が異なるため、廃棄費用を補助することで新たな差を生む。
 各自で持ち帰るよりも園で廃棄する方が費用負担が生じるのは確かだ。1月の通知で、国が「保育所等で処分することを推奨」したのだから、使用済み紙おむつ廃棄費用を含めた保育所の運営にかかわる費用(公定価格)の見直しがなされるべきである。
 さらに、通知の最後には、「使用済みおむつ処分の方針にかかわらず、保育所等においては、引き続き便の状態や回数を保護者に伝えること等、こどもの健康状態等の共有に配慮をお願いしたい」とした。この点についての周知もしっかり行い、父母も知ろうとすることを忘れないで欲しい。
 国は、少子化対策の一環ではなく、子どもたちにとって安心して過ごせ、父母が安心してお願いできる保育園のために、多忙化する保育現場の実態に見合った設置基準の見直しによる保育士増員と負担軽減策を早急に予算化し実行してほしい。

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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