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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第四回 おむつ無償廃棄を求めて

 父母会からの声で
 船橋市の公立保育園では、父母が紙おむつに名前を書いて持参する。そして、使用済みの紙おむつは保育士が園児ごとに振り分けて、父母が持ち帰っている。
 父母会の連合である連絡会の要望により、2021年度から希望制で月300円、年3600円の実費徴収を行って使用済み紙おむつの廃棄ができるようになった。現在、0歳~2歳児では約8割、全体では約6割の家庭がこの制度を利用している。
 連絡会が紙おむつ廃棄問題に取り組み始めたのは、もちろん父母からの声からだ。
 定例会の中で、駅近くにある園から多数の声が上がった。
 「電車で帰る家庭は、帰りに駅地下などで買い物をする方もたくさんいる。そうした時に、使用済みの紙おむつを持って歩かなくてはならないのでとても気を遣う」
 「人混みの中を通るので、匂いが漏れないよう袋を2重にするなどの工夫をして持ち歩いている」
 また、こうした事情があるからか、駅周辺のごみ箱では、使用済み紙おむつが捨てられていたこともあったようだ。

 粘り強い要望提出
 実現に向けた連絡会での主な取り組みは、要望書の提出である。
 連絡会では年2回、市への要望書をまとめている。
 1つは、船橋市保育問題協議会(以下、協議会)として統一要望書の提出である。この協議会は、民間保育園、学童保育協議会や船橋市労働組合など船橋市全体の保育の向上を目指し活動する団体の集団である。例年夏ごろに各団体の要望書をまとめ統一要望書として提出し、回答を得て、回答を基に関連部署と直接やり取りを行う回答説明会、さらに市長懇談まで行っている。
 2つ目は、各園要望書である。各父母会が園での要望などを取りまとめて要望書をまとめる。その後、各園からの要望書を連絡会で取りまとめて市へ提出している。
 使用済み紙おむつの廃棄についても、主に統一要望書、園によっては各園要望書、そして市議会への陳情などを重ね、ようやく2021年度から実費徴収により園で廃棄できるようになった。しかし実費負担となるため、利用しない世帯もみられる。
 連絡会では、コロナ禍の感染症対策として、また有償処分を利用する世帯と利用しない世帯の仕分けが保育士の負担になっているなどとして、使用済み紙おむつの廃棄無償化を求めている。
 東京23区では父母が声を上げるなどの動きもあり、紙おむつを持ち帰らせている自治体はゼロになっている(毎日新聞2022年8月)。公立園だけをみれば、船橋市近隣自治体の多くで無償化が実現しており、実費費用を徴収しているのは船橋市と浦安市だけとなっている。徴収している浦安市でも0・1歳のみ月100円で、それ以降は無料となっている。さらに私立園に対してもおむつ廃棄無償化補助が市川市、習志野市、千葉などにも広がっている。
 船橋市内の私立園でも、使用済みおむつの無償廃棄を行っている園がある。公立保育園ではなぜ使用済み紙おむつの廃棄無償化ができないのか。要望についての回答は、例年「紙オムツ処分に係る実費を徴収することで成り立っている事業であり、ご理解いただきたい」というものである。処分費用の問題だけなのだろうか。


市当局と交渉する父母会役員(2022年10月撮影)

 副市長は前向き、費用は年2000万円
 2021年7月に提出した紙おむつ廃棄無償化の要望書に対して、2022年2月に行った杉田副市長との定例懇談では、使用済み紙おむつの廃棄無償化について「隣市での実施状況は把握しており、検討したい」と表明、無償化に向けて動き出すかと期待をしたが、今年度も動きはなく、また同様の回答であった。
 実際にどれだけの費用がかかっているのかを担当課に確認すると、現在は、公立27園で約450万円/年。無償化になれば、現在各自持ち帰っている家庭分を含めると約500万円/年と試算する。公立園だけでは大きな金額ではないが、負担の公平性の観点から、私立園などに通う子どもも含め市全体で使用済みおむつの廃棄無償化に取り組む必要があるため、概算総額約2000万円/年程度と見込む。
 ほぼすべての子どもが紙おむつを使用する。市全体で取り組んでもそれほど多額の費用がかからず、広く子育て支援となる。コロナ禍、今まで以上に感染症対策に敏感にならざるを得ないのに、使用済み紙おむつの入ったごみ箱が何度も開けられ、その空気が広がる。また、紙おむつ用ごみ箱は置き場所を取り、ごみ箱の消毒作業は大変な状況にある。

 おむつを見て健康管理?
 介護関係者から「保育園って使用済みの紙おむつを持ち帰っているのですか?!」と驚かれた。なぜ、保育園では使用済み紙おむつを持ち帰るという選択肢があるのだろうか。よく「父母が排便の回数や健康状態の把握のため」という理由が挙げられるが、多くの父母は求めてはいない。
 しかし一方で「自分の子どもの排泄物の様子を知ってもらうためという理由もゼロではないのではないか。生後間もなくの乳児でも、入園してしまえば1日の大半を園で過ごす。その間は自分の子どもはどうだったのか、ちゃんと排泄できたのか、状態はどうなのか、それを知るツールにはなる」という意見もあった。
 国も動き出している。「厚生労働省は、地域によって子どもの体調管理などを目的に使用済みの紙おむつを保護者に持ち帰ってもらう保育所があるため、実態把握に向け調査し、対応を検討する」(9月22日毎日新聞WEB保育所の「おむつ持ち帰り」、厚労省が実態調査へ 保護者に負担 | 毎日新聞 (mainichi.jp))という。
 使用済み紙おむつ廃棄を自治体や各保育所の運用に委ねるのではなく、国全体で無償廃棄が当たり前になることを切に願う。ただ、園はその日の子どもの様子、体調管理などを父母に伝えていくこと、父母も我が子の様子を「知ろう」とする気持ちを忘れてはならない。


屋外に仕分けられたおむつ
(市立習志野台第二保育園提供)


手前のバケツが持ち帰り用おむつ
(市立習志野台第二保育園提供)

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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