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「父母会戦記:保育園がなくなる日」今仲希伊子

第五回 保育料値上げを止めた!!!:私が市議になったわけ

 市議になった理由
 私は、2019年5月から船橋市議会議員となった。
 なぜ議員になろうと思ったのか?
 大きな理由は父母会活動にある。
 公立保育園父母会の連合である連絡会の会長、そして事務局長として、船橋市の審議会である「子ども子育て会議」などに参加して意見を述べても手ごたえはなく、出来レースだと感じていたからだ。
 しかし、保育を取り巻く問題は山積していた。待機児童問題、保育中の死亡事故、園児虐待などが連日のように報道され、船橋市内でも保育中の事故が起きていた。
 劣悪な保育環境は、とりわけ小さな子どもたちにとって命にかかわる重大事故・事件になりかねない。すべての子どもたちが元気で楽しく過ごせる「第2の家」となる保育園であってほしい。そうでなければ、私たちは働けない。
 もう一つの大きな理由は、育児がまだ母親の仕事だった時代に母が研究職だったことによる。
 私は保育園で早朝から夜まで過ごし、閉園ギリギリまで迎えに来ない日も多く、最後の一人の時には保育士から心ない言葉を浴びたこともあった。「お母さん早く来て。先生迷惑かけてごめんなさい」。そう子どもながらに心で叫んだ。
 そんな思いを子どもにはさせたくはない。けれど仕事も子育ても両立させたい。だから、保育環境の充実が必要なのだ。

 寝耳に水の保育料値上げ
 当選後、すぐに「行財政改革推進プラン」に注目が集まった。このプランは、このご時世、どこの自治体でもやるような「選択と集中」による事業整理を行ったもので、そのなかに「保育料の見直し」が入っていた。
 これまで連絡会をはじめとした父母会活動や市の審議会に数多く関わってきたのに寝耳に水だった。結局、ものごとは市民や父母の知らないところで進んでいくのだと改めて感じた。
 早速、初めての一般質問で取り上げ、市議会で問題にすることができた。

現在、行政改革プランでは、0、1、2歳児の保育料の値上げが検討されています。0、1、2歳はおむつなどお金も時間も手がかかる時期です。復職後もこの時期は時短勤務などしている父母もたくさんいます。また、保育の要件には疾病、障害、介護、看護、就学、育休中、産休中、求職活動中などもあり、働きたくても働けない要件も含まれています。0、1、2の保育料の値上げは子育て支援、男女共同参画社会に向けた取り組み、そもそも少子高齢化に対応するための行政改革という理由に逆行するものである。

 これは連絡会にとっても大きな前進となった。連絡会内でも保育料値上げの検討についてすぐさま情報を共有し、市内の各公立保育園の父母会でアンケートを実施。アンケート結果から値上げ「反対」の意見をまとめた。さらに、その意見を市に伝えるだけでなく、毎日新聞で記事にしてもらった。


図1 保育料値上げに反対する「連絡会だより」

 根拠がなかった値上げ……そして撤回
 市は、保育料を値上げする理由として、①待機児童を解消するための必要経費、②現状の保育の維持費用、③他市より重い市の負担割合―を挙げる。
 さきほど挙げた行革プランでは、とりわけ、③の市の負担割合について、棒グラフで説明しており「船橋市は市単独で軽減している率が大きい」とする。


図2 市の負担割合が重いとした資料

 しかし、市が出した数字の信憑性はどうなのだろうか。
 保育料は国基準に基づいて各市町村が独自に割合を設定している。
 国の資料「幼児教育の無償化に関わる参考資料」(内閣府・文科省・厚労省、2018年)を見てみよう。


図3 「幼児教育の無償化に関わる参考資料」(内閣府・文科省・厚労省、2018年)

 この資料には、2016年時点の市町村による保育料の独自軽減が示されており、695の市町村のうち、国基準どおり保育料を設定している市町村は10市町村のみだった。
 さらに、国基準の保育料の6~7割、軽減率で言えば3~4割に軽減している市町村が最も多く、中央値は国基準の62%であるということが示されている。
 船橋市の72%は決して市の負担が高いことを示してはいない。それを自分の都合のよい数字だけを市民に示して、あたかも高いかのように提示してくるのである。
 これが行政への不信を招く大きな原因になっている。
 「今後負担を増やすということは担当課長としてはない」――。
 2022年10月28日午後、市幹部はこう述べ、保育料の値上げを撤回した。連絡会はじめ父母会の「声」が通った瞬間だった。

 議会と連絡会のハイブリッド
 単に議員が取り上げるだけではなく、やはり多数の市民の声、当事者の声の裏付けが重要である。
 連絡会で「保育料の値上げ」について取り上げたことと並行して、市民の声を受けた議会での質疑が大きな力になる。
 保育を取り巻く環境には多くの問題が山積している。多くが共働き家庭の私たちでも、子どもを預けられればあとはお任せではなく、子どもたちが1日の大半を過ごす保育園のことに興味を持ち、関わり、より良い保育環境向上へ働き掛けていくことは忘れてはならない。
 市(園)主導で、決められたことを受け入れるだけではなく、アンテナを高く張り、情報を得て、すぐに反応していく。父母たちがバトンを引き継ぎ、不断の努力によって子どもたちの保育環境が少しでも良くなれば、それ以上の喜びはない。

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著者略歴

  1. 今仲希伊子(いまなか・きいこ)

    1980年生まれ。京都女子大学大学院現代社会学科公共圏創成専攻修了。船橋市立金杉台保育園父母会役員、船橋市公立保育園父母会連絡会会長、船橋市子ども・子育て会議委員などを経て、2019年から船橋市議。

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