第九回 船橋で進まない支援児の私立園受け入れ
小金井市の公立廃園問題
2023年12月10日の朝日新聞東京版には、小金井市の市立保育園の廃止問題が大きく報じられた。
「議会同意を得ない専決処分で廃園を決めた前市長は辞職。撤回を公約に掲げた新市長が誕生後1年が経つが廃園方針は変わらないまま」だという。
なぜ変わらないのか。
市議会では、前市長の専決処分による廃園決定への不承認であり、市立保育園の廃園は必要だとして賛成多数で廃園方針は変わらないからだ。
結局、市長が市立廃園の撤回を掲げて当選しても、廃園決定前の条例に再改正する議案や、公立園の役割を検討する有識者委員会の設置に関する条例案が否決されている。そのため、市立園の存続を求める子育て中の女性1人が市に条例改正の取り消しなどを求める訴訟を起こしている。
小金井市は、市立保育園廃止の理由として、公立は民間より運営経費がかさみ、施設の老朽化も進んで建て替え費用がかかることを挙げる。
全国的にも公立園民営化の議論は、財政的議論が先行し、公立園での保育を民間にすれば運営費を抑えながら同水準、もしくはそれ以上の保育ができると安易に考えられる傾向にある。実際はそうではないことは、連載第三回「民営化の効果は実は不明!? 行政が隠すカラクリ」を参照。地域の実情に応じて、自治体と地域、保護者、保育関係者がしっかりと公立園の存在意義を考えていくことが大切である。
記事の中で「保育園を考える親の会」の顧問、普光院亜紀さんは「公立保育園は、専門的な人材を育成し、障がいのある子どもや育児に不安のある家庭への対応などを率先して担える存在。地域の民間園を巡回してサポートしたり、災害時に地域の保育拠点になったりすることができる」と公立園の存在意義を訴えている。
公立の役割とは……
民営化の全国的な流れを受けて、船橋市でも2010年4月、「船橋市保育のあり方検討委員会」(以下、あり方検討委員会)を「保育を取り巻く現状と課題を踏まえ、待機児童対策を初め、公立・私立保育園のあり方、保育の質の維持、向上、在宅子育て家庭への支援など、市の保育行政の今後の方向性について総合的に検討し、限りある財源や人材を有効に生かすための方策を検討し提言」する目的で設置した。しかし、論点は民営化に向けた検討であり、その中で、公立園の存在意義を整理している。
あり方検討委員会の一次報告書(同年8月)は以下のように取りまとめている。
公立保育園は、「公的機関とのネットワークを持つという「公」の特性を発揮させ、例えば市内をいくつかのブロックに分け、そこで公立保育所が拠点としての機能を持ち、引き続き対応が困難な子どもや家庭への直接支援、又は地域の様々な保育機関が行う支援に対して援助するといった役割を担う」とし、同年12月、最終的に提言で、財源と人手を確保するためには一定数の民営化はやむを得ないと判断した。
あり方検討委員会は、公立園を「対応が困難な子どもや家庭」のための保育園と位置づけ、これにより私立園との役割分担が明確化された。ちなみに、提言において「2013年4月以降に公立園の民営化を実施する」としたが、その後、父母らによる反対運動や2015年に全国ワースト2位となった待機児童解消が最優先され、10年経過した現在もなお公立園全27園を維持している。
進まない公立園以外での受け入れ
こうした経過があってか、船橋市では公立園以外での発達支援児の受け入れが進んでこなかった。少子化、コロナ禍での預け控えなどにより待機児童問題はほぼ解消し、たとえ希望する保育園の定員に空きがあっても発達支援児は入れないという状況がいまだに起きており、発達支援児の父母からは落胆の声が届いている。
『千葉県の保育運動資料集』によると、2013年、発達支援児の受け入れは公立園27園中27園であるのに対し、私立園は44園中1園(2%)のみだった。10年経過した2023年現在でもいまだ私立園101園(分園4園含む)中17園(16.8%)という状況である。
発達支援児を受け入れるには、支援するための保育士(加配)や、保育士・職員には知識や経験が必要となり、さらに▼公立園が「対応困難な子どもや家庭の受け皿となること」が求められていること、▼市も私立園に受け入れ要請を行ってこなかったこと―が受け入れが進まなかった要因として考えられる。
船橋市では、2015年施行の子ども・子育て支援法による新制度を機に、株式会社など社会福祉法人以外の運営主体が参入してきたことで公立園以外での発達支援児の受け入れは増えた。ところが、船橋市独自の運営によって、他自治体では受け入れている事業者でも、船橋市では受け入れていない園もあるという状況が続いてきた。
2021年6月、障がい者差別解消法において、合理的配慮の提供、例えば、バリアフリー化や、言葉が不自由な子どもやコミュニケーションが難しい子どもに対して手話や絵カードなどを活用するなどの環境整備を行うことについて、行政機関は義務、事業者は努力義務とされていたが、事業者においても義務とする改正法が公布され、2024年4月施行される。施行まで4カ月に迫っていても、船橋市における発達支援児の保育所での受け入れが公立園と一部の私立園に限られている。
こうした状況を受け市では、2024年4月からすべての保育園へ入所申し込みを可能とし、受け入れるための保育士採用活動費(加配保育士1人あたり80万円上限)や施設改修・備品購入に要する費用補助のための12月補正予算を組んだ。
本来は各事業者が発達支援児の受け入れに取り組むべきであるが、保育環境の問題、保育士不足など保育に関する課題は山積しており、受け入れが難しい現状もある。法改正により、公立園・私立園問わず、正当な理由なく、支援の拒否や制限は許されないが、職員体制や知識不足のまま受け入れて、事故があってはならない。
すべての子どもが私立園や幼稚園でも、当たり前に選択できる子育て環境整備への支援に取り組むことが重要である。公立園は「対応困難な子どもや家庭」、発達支援児の受け皿にとどまらず、私立園に対し、ノウハウを共有し支援を行うことで受け入れ拡大を図るなど、保育の質の向上を牽引する役割があることも訴えたい。
2013・2023年度版 千葉の保育運動資料集 千葉県保育問題協議会より