フランスで映画館再開による公開ラッシュ
フランスの映画館が5月19日からようやく再開した。昨年2度目のロックダウンを経て以来、6か月半ぶりの始動である。統計によれば、国内外の作品を足してじつに450本のリリースが待機しているそうで、これから当分は公開ラッシュが続きそうだ。
再開1週目だけを見ても、新作およびロックダウンで打ち切りになった作品のリリースと旧作のリバイバルを足すと、40本以上に及ぶ。この状況下で、インディペンデントな作品が淘汰されることを恐れた中小配給会社からは、公開本数をコントロールできないかという声が上がったものの、大手配給やアメリカ主導のハリウッド系作品が譲歩をするわけもなく、対策を講じる手立てはない。これだけ待たされたのだから早く作品を出したいという事情は、どこも同じだろう。
新作では、『コーラス』のクリストフ・バラティエ監督がジャン=ポール・ベルモンドの息子、ヴィクトール・ベルモンドを主演にした難病ドラマ、Envole-moi(「舞い上がる」)、最愛の夫を亡くした妻の再生を、スクリーン復帰は久々となるエマニュエル・ベアールがしっとりと演じるL’Étreinte(「重圧」)、スポーツ界のセクハラ問題を取り上げたSlalom(「スラローム」)などが話題だ。
なかでもSlalomは、昨年開催されなかったカンヌ映画祭の「カンヌ・レーベル」に選ばれたほか、いくつかの映画祭に参加して注目を浴びた作品。ジェレミー・レニエ扮するアルペンスキー競技のコーチが、才能ある生徒リズ(ノエ・アビタ)に目をかけるうちに、禁断の一歩を踏み出してしまう。15歳のリズはスパルタ・コーチの行為に成す術もなく泥沼にはまっていく、という内容だが、シャルレーヌ・ファビエ監督自身の経験を元にしているという。
本作が初長編のファビエ監督は、心的ストレスとプレッシャーに追い詰められていくヒロインの姿に、ダイナミックなアクション・シーンの醍醐味を加え、キリキリと迫力に満ちた作品を撮り上げた。一方、リズ役を演じたアビタは本作で、フランス外国人記者クラブの新人女優賞を受賞し、その演技が高く評価された。#MeTooムーブメントの波に乗り、大きな議論を呼びそうだ。
ファビエ監督の初長編Slalomのポスター
◇初出=『ふらんす』2021年7月号