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「アクチュアリテ 映画」佐藤久理子

夏を彩る、オゾンの鮮烈な青春映画

 6月下旬に映画館が再開して以来、新作も徐々に封切られ、ようやく映画界にも活気が戻り始めた印象だ。パリは毎年7月に入るとバカンスで人がいなくなるため、映画館も閑古鳥が鳴くのが常だが、今年は新型コロナウィルスによる経済的な影響もあり、バカンスも短めという人が少なくない。さらに長く続いた外出制限の反動で、映画館に通いたい、という人もいるせいか、心配されていたほどには観客の映画館離れも見られないようだ。むしろコロナ対策により、定員が通常の半分に定められていることで、たとえヒットしても以前と同じペースでは興収を得られないことの方がネックとなるだろう。

 再開を飾った新作で話題を集めているのは、演技派エマニュエル・ドゥヴォスが調香師に扮したLes Parfums(「香水」)。かつて一世を風靡しながらもスランプに陥り、いまは嗅覚に自信が持てなくなっているヒロインと、彼女に雇われる新米ドライバー(グレゴリー・モンテル)の触れ合いを描く。最初は高飛車でいけすかないヒロインが徐々に弱さや人間味を見せるかたわら、一度は失業のどん底にあったドライバーが自尊心を取り戻して行くさまが交差し、繊細で温かみのあるドラマになっている。安易なラブストーリーを避けて粋なエンディングを用意したところも心憎い。

 さらにこの夏を席巻しそうな話題作が、革命記念日にぶつけて公開されたフランソワ・オゾンの新作ÉTÉ 85(「85年、夏」)である。今年カンヌ映画祭がおこなわれていればそこで披露されるはずだった本作は、外出制限によって公開が延期されていた。夏が舞台なだけに、これ以上は延期できないというタイミングだったのだろう。

 イギリスの作家エイダン・チェンバーズの小説Dance on My Graveをオゾンが脚色した本作は、舞台をノルマンディの海辺に移し、16歳と18歳の少年の一夏の出会いと別れを鮮烈に描く。

 85年という設定は、オゾンが原作を初めて読んだ年であり、彼の青春時代だからとか。自身の思春期の思いを投影したと語っている通り、熱烈な感情にロマンティスムとノスタルジーが加わった、せつなくエモーショナルな作品だ。

 友人のヨットを借りてひとり沖に出たアレクシは、危うく遭難しかけたところを、地元の青年ダヴィッドに救助される。2歳年上で、何事にも積極的で危険を顧みない彼に、アレクシは徐々に惹かれていく。主演の新鋭フェリックス・ルフェーブルとバンジャマン・ヴォワザンも申し分なく、さすが俳優選びに定評のある監督と唸らずにはいられない。

 音楽を担当しているのは、人気グループAirのジャン=ブノワ・ダンケル。またオゾン自身が好きだったという80’s英国ニューウェーブのヒット曲が全編を彩り、青春の痛みにメランコリックな輝きを添えている。

◇初出=『ふらんす』2020年9月号

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著者略歴

  1. 佐藤久理子(さとう・くりこ)

    在仏映画ジャーナリスト。著書『映画で歩くパリ』

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