蘇った歴史的大作が公開に
Napoléon vu par Abel Ganceのポスター
5月のカンヌ国際映画祭のクラシック部門で前半(第一部)が披露された、アベル・ガンス監督の伝説的な無声映画、Napoléon vu par Abel Gance(アベル・ガンスによるナポレオン/1927)が公開になった。何が伝説的かと言えば、本作は第一部と第二部を足しておよそ7時間半に及ぶ長尺の作品であることに加え、時代を考えれば驚くほど革新的な映像技術が用いられているからだ。だがトーキーへの移行もあり、長い歳月のなかで忘れ去られたとともに、フィルムの劣化や紛失に見舞われた。またガンス自身も異なる編集のバージョンを制作したり、無理やり短縮版が作られたりなどで、22本のバージョン違いが存在したという。そんななか、今回CNC(フランス国立映画映像センター)やNetflixの資金などを得てシネマテークが音頭を取り、16年をかけてグランド・バージョンと呼ばれたものの修復版が完成したのである。
本作は無声映画ではあるが、生演奏付きで上映するための楽譜が存在した。ほぼ30分に達するオリジナル曲とハイドン、モーツァルト、ベートーベンなどの楽曲を混ぜたものだが、ガンスが納得せず、結局プレミアの折には演奏されなかったという。そんなわけで今回の修復版のために新たな作曲家(シモン・クロケ゠ラフォリー)が任命され、オリジナルになるべく忠実でありながら、史上もっとも長い映画音楽を新たに作ることになった。ちなみに7月4日と5日には、セーヌ川に浮かぶ劇場、セーヌ・ミュージカルで、オーケストラの生演奏付きで上演するシネマ・コンサートが開催された。
もっとも、本作の素晴らしさはやはり映像の壮大さにある。大群衆を率いたパノラミックな戦いのシーン(リドリー・スコットの『ナポレオン』にも引けを取らない)、どうやって撮ったのかと思わせる、迫力のある乗馬の逃走シーン、フィルムに特別な色彩加工を施し鮮烈な赤をもたらしたカラーの場面(この赤が血を彷彿させる)、トリプティック(3つの画面分割)を用いた斬新な映像など、さまざまな発見に満ち時間があっという間に過ぎていく。ガンスの描くナポレオンはカリスマ的な人徳に満ち、貧しい者や名もない兵士に目を向ける。そんなヒーローとしての解釈に異を唱える観客もいるだろう。だが政治的な立場はどうあれ、ガンスが映像面で成し遂げた偉業は映画史に刻まれるものだ。