元人気DJの監督作がカンヌのオープニングに
Le Deuxième acte ポスター
今年も5月にカンヌ国際映画祭が開催された。本誌が出る頃には受賞者が明らかになっているはずだが、まずは開幕から1日遅れでフランスの公開を迎えたオープニング作品、Le Deuxième acteについてご紹介しよう。もともとMr.Oizoという名のDJとして人気のあったカンタン・デュピューの監督作で、レア・セドゥ、ルイ・ガレル、ヴァンサン・ランドン、ラファエル・クナルら人気俳優を揃えたコメディだ。
コメディといっても、デュピューの作風はかなり逸脱している。現代のリアルな風景に突然巨大な昆虫が登場したり(Mandibules)、人を若返らせる穴のある一軒家が舞台になったり(『地下室のヘンな穴』)、画家ダリを複数の俳優が演じたり(Daaaaaali!)、毎作奇抜なアイディアに溢れる。これまでに比べると、新作はむしろまともな方かもしれない。
恋人に夢中のヒロインが、彼を父親に会わせるため、田舎のダイナーで待ち合わせをする。一方恋人の方は、内心彼女に飽きていて、友人に押し付ける魂胆で彼と共にやってくる、という設定の映画を撮影する、二重構造の物語になっている。
本作の面白さはむしろ、セリフにある。いわゆる業界内輪ものとして、俳優同士の嫉妬やギャラの話、最近話題のAIが監督に取って代わるアイディアや、フランス映画界を席巻している#MeTooまでネタにされる。それらが皮肉の効いたセリフの応酬となって、観る者の笑いを誘うのだ。
もっとも、それ以上でも以下でもない、表面的な面白さで終わってしまうところがやや物足りなさを感じさせる。シチュエーション・コメディの弱点とでも言えるだろうか。カンヌのオープニング作品としては異色の選択だが、出演者のスターバリューに重きを置いたのかもしれない。
今回はコンペティションに6本フランス映画が並び、ジャック・オディアール、ミシェル・アザナヴィシウスらベテランから若手のコラリー・ファルジャ、アガト・リーダンジェールまで多彩な顔ぶれが揃った。また他部門では、レオス・カラックスの中編、ジャン゠リュック・ゴダールの遺作、ダニエル・オートゥイユ、ノエミ・メルラン、セリーヌ・サレットといった俳優たちの監督作などが披露され、フランス映画の多彩さを印象づけた。