カンヌのフランス映画
『万引き家族』仏版ポスター
今年のカンヌ映画祭は、是枝裕和監督の『万引き家族』がパルムドールを受賞し、21年ぶりに日本映画が最高賞に輝いた記念すべき年となった。是枝監督はフランスで映画を撮る企画を準備中というから、ますます今後の活躍が楽しみである。
全20本のコンペティションは例年になく若手やフレッシュな面子が目立ったが、フランス映画はクリストフ・オノレ(Plaire, aimer et courir vite)、ステファン・ブリゼ(En Guerre)、エヴァ・ウッソン(Les Filles du soleil)、ヤン・ゴンザレス(Un Couteau dans le coeur)と、中堅と新鋭が揃った形となった。ちなみにJ-L. ゴダールのLe Livre d’imageはスイス/仏合作。審査員メンバーの配慮によって特別にスペシャル・パルムドールが作られ、授与された。
これらの作品のなかでオノレとブリゼは、フランスでも同時公開を迎えた。最近はカンヌ映画祭に出るフランス映画が国内でほぼ同時期にリリースされることが多い。その方があらためて公開時期に宣伝費をかける必要がなくて済むという、経済的な理由が大きいようだ。
ブリゼの作品は、『ティエリー・トグルドーの憂鬱』のヴァンサン・ランドンを再び主演に迎えた同じタイプの作品。リストラによる工場閉鎖に反対する工員たちがストライキを繰り広げ、雇用主と戦う様子を乾いたドキュメンタリー・タッチで追う。その無駄を排した演出がなおさら、ランドンの迫真の演技とともに胸を突き、観客に鉛のような重い後味を残す。
一方、オノレの作品は、自身の青春時代を反映したとてもパーソナルな内容である。90年代に生きるゲイの人々の出会いや恋愛を描き、エイズも扱っているものの、そのトーンは同時代を描いた『BPM ビート・パー・ミニット』と比べるとより軽やか。40歳を目前にして人生に懐疑的な作家が、のびのびと楽観的な若きアルチュールに出会い恋に落ちる。作家にとってはそれまでと変わらない、気まぐれな楽しみのはずが、アルチュールのまっすぐな気持ちによって、初々しい情熱を取り戻していく。オノレ特有の洒脱なリズム、ユーモア、そして良い意味でのナイーブさが心を打つ。
カンヌでは両作品とも惜しくも受賞を逃したが、総じて評価は高かった。ちなみにゴンザレスのUn Couteau dans le coeur もゲイの世界を描いているが、こちらはコンペティションとは思えないほど、あえてB級を狙ったジャンル映画。それにしても昨年の『BPM』に続きゲイ映画が2本コンペに選ばれたのは、これも時代の反映だろうか。
◇初出=『ふらんす』2018年7月号