重いギャスパーか、軽妙なルイか
Les Confins du Monde(「世界の果てへ」)
今月は、フランスの30代若手俳優の代表といえるギャスパー・ウリエルとルイ・ガレルの新作が並んだ。
ウリエルの作品、Les Confins du Monde(「世界の果てへ」)は、昨年のフランス映画祭でいち早く上映されたので、ご覧になった方もいるかもしれない。1945年のインドシナ戦線を舞台に、目の前で兄を敵兵に殺された若い兵士ロベールが、復讐を果たそうとするうちに、戦争の不条理と生々しい現実を前に我を見失っていく。そんなとき、若い地元の女性に出会うことで変化が起きる。
インドシナ戦争を題材にしたものはフランス映画に少なくないが、ギョーム・ニクルー監督は本作で、戦場の残虐さそのものを描くというよりは、精神的なトラウマに焦点を当てている。その点では、『ディア・ハンター』のような作品に近いかもしれない。兄を無残に殺されたロベールは復讐を誓うものの、インドシナの女性と出会うことで、彼の二元論的な見方は揺るがされる。それはロベールを楽にしてくれるどころか、むしろさらなる混沌と絶望の世界へ導くのだ。
難しい役どころを、激しいラブシーンも含めて体当たりで演じたウリエルの成熟ぶり、そして相変わらず怪演を見せるジェラール・ドパルデューの存在感など、見どころに尽きない。
ルイ・ガレルの新作L’Homme fidèle(「忠実な男」)は、彼の2作目の監督・主演作であり、現在のパートナー、レティシア・カスタに加えてリリー・ローズ・デップが共演する三角関係の物語である。
突然振られてから10年の歳月が経ったのち、アベルはマリアンヌに再会する。パートナーのポールを亡くした彼女と再び付き合うようになるも、ポールの妹のイヴが現れ、アベルに果敢にアタックする。一方、マリアンヌの息子はある日アベルに、彼女がポールを殺したのだと告げる。果たして真相は、というスリラーと恋のトライアングルの入り混じった軽妙なドラマ。土台はクラシックな恋の鞘当てだが、ルイ・ガレルと脚本を共同執筆したのが、ルイス・ブニュエルの『昼顏』などで知られる重鎮、ジャン=クロード・カリエールであるせいか、ヒッチコック的なひねりが効いている。
ここでは能動的にものごとを進めるのは女性たちであり、アベルはいつも振り回され、予期せぬできごとに驚きつつもマリアンヌを諦められない。それでいて、ちゃっかりイヴとも一夜を共にするのだから隅に置けないが、ルイはそんな憎めない“ とほほ感” を絶妙に醸し出す。彼は父のフィリップ・ガレル監督よりも、洒脱なコメディを撮ることに長けていると言えそうだ。
◇初出=『ふらんす』2019年2月号