第28回 ヨゼフ・A・シュンペーターの名言(2)
"Before 1904 nobody thought that the motor car could ever be an article of mass consumption. Nobody knew there was the possibility of selling millions of cars every year. But one man, Mr.Ford, knew it. And he built a gigantic plant in order to produce a cheap motor car."
Joseph A. Schumpeter(1931)
シュンペーターは、1931年の来日時、東京帝国大学、東京商科大学(現一橋大学)、神戸商業大学(現神戸大学)などで講演した。東大での講演「景気循環の理論」を聴いていた一人が、のちに日本の理論経済学の黎明期に活躍した安井琢磨である。安井は、「ワルラスから(研究を)始めなさい」というシュンペーターのアドバイスを忠実に守った。安井は、シュンペーターの一作目『理論経済学の本質と主要内容』の翻訳者の一人にもなった。
「1904年以前、誰も自動車がいつか大衆消費の商品になりうるとは思わなかった。誰も、毎年、何百万もの自動車が販売される可能性があることに気づかなかった。しかし、一人の男、フォード氏はそれを知っていた。そして、廉価な自動車を生産するために、巨大な製造工場を建設した。」
イノベーションの可能性に誰よりも先に気づいたヘンリー・フォードは、当初「独占利潤」に近いものを稼ぎ、世界で最も富裕な男になった。やがてそれを模倣しようとする者が大勢現れ、一大産業が出来上がったが、競争圧力によって利潤は消えていった、というような説明が続く。もちろん、シュンペーターの『経済発展の理論』の骨子の提示である。世界の大学者の講演を聴いた学生たちの興奮はいかばかりだったか。
Joseph A. Schumpeter," The Theory of the Business Cycle," 『経済学論集』vol.4(1931)