第26回 ロナルド・H・コースの名言
"The main reason why it is profitable to establish a firm would seem to be that there is a cost of using the price mechanism."
Ronald H. Coase(1937)
経済学者も高齢化の時代になって長生きする人が増えたが、さすがに百歳以上生きたロナルド・H・コースは稀だろう。長年シカゴ大学教授をつとめたが、フリードマンのいた経済学部ではなく、ロースクールの教授だった。彼は生涯を通じて寡作だったが、若き日に発表した論文「企業の本質」(1937年)は最も有名なものの一つである。
「なぜ企業を設立するのが有利なのか。その主な理由は、価格メカニズムを利用するにはコストがかかるということであるように思われる。」
「価格メカニズムを利用する」コストは、のちに「取引コスト」と呼ばれるようになった。コースの論文が現れるまで、経済学者は「企業」については語るが、それがなぜ存在するのかについて考察した者はほとんど皆無だった。若き日のコースは、それは、「取引コスト」(模索と情報のコスト、交渉と意思決定のコスト、監視と強制のコストなど)がかかるからだ、という明快な答えを与えた。もし、市場で行われてきた取引を組織化し、企業を設立する場合のコストが、取引コストよりも少なければ、「市場」に代えて「企業」が選択されるだろう。そして、企業の規模の限界は、取引を組織化する場合のコストと、取引コストが等しくなるところで画される、というのである。コースに続く「新制度学派」の研究者たちを鼓舞した名論文である。
Ronald H. Coase, " The Nature of the Firm," Economica, New Series, vol.4,no.16(November 1937)p.390.