第40回 ハロッドの名言
"Departure from the warranted line sets up an inducement to depart farther from it. The moving equilibrium is thus a highly unstable one."
R.F.Harrod(1939)
ロイ・F・ハロッドはケインズの愛弟子だが、ジョーン・ロビンソンやリチャード・カーンと違って、ケンブリッジではなくオックスフォードの出身である。だが、ケインズおよびケインズ家の信頼厚く、ケインズの死後、名著『ケインズ伝』(1951年)を書いた。
ケインズの『一般理論』は、「短期の想定」を置いていたので、その後のケインジアンは、ケインズ理論の長期化という問題に取り組んだが、ハロッドは、E・ドーマーとともに最も早くその成果を発表した一人である(マクロ経済学の教科書では、「ハロッド=ドーマーモデル」としてよく紹介された)。
「保証線からの乖離は、そこからさらに乖離させようとする誘因を生じさせる。進歩の移動均衡は、このように高度に不安定なものである。」
ハロッドの研究成果は、まず、論文「動学理論に関する一試論」(1939年)となって現れることになるが、彼はそれをさらに発展させて、のちに『動態経済学序説』(1948年)と題する著書にまとめた。だが、基本的なアイデアは、ほとんどすべて1939年の論文のなかに出ている。学界で最も有名かつ論争の的になったのは、「現実成長率」と「保証成長率」の乖離から動学均衡がきわめて不安定であることを提示した「不安定性原理」だが、人口成長率と技術進歩率の和として示された「自然成長率」も長期の趨勢を考察するときには劣らず重要である。これほど優れたケインジアンがノーベル経済学賞の栄冠に輝かなたったのは残念でならない。
R.F.Harrod, " An Essay in Dynamic Theory," Economic Journal, vol.49,no.193(March 1939), p.23.