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【根井ゼミ】「1日1文 経済学の名言」根井雅弘

第30回 ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの名言(2)

"What distinguishes the successful entrepreneur and promotor from other people is precisely the fact that he does not let himself be guided by what was and is, but arranges his affairs on the ground of his opinion about the future."
Ludwig von Mises(1949)

 企業家論の分野は、長いあいだ、シュンペーターの英雄的な企業家像に支配されていたので、それとは違うタイプの企業家像に関心が向かうことはほとんどなかった。ミーゼスの企業家像も事実上埋もれていたのだが、ハイエクと一緒に復活したオーストリア学派的思考法への関心から、ようやく光が当てられることになった。

 「成功した企業家や起業家を他の人々から区別するのは、まさに、彼が過去や現在に左右されず、将来に関する自分の見解に基づいて事柄を解決するという事実にある。」 

 ミーゼスの「企業家」は、イノベーションを遂行し、経済を動態の真っ只中に引きずり込む、シュンペーター型の格好良い企業家とは必ずしも一致しない。ミーゼスは、「変化」する世界で行為する経済主体として企業家を捉えたが、彼は、不確実な未来に直面しながらもあえて「投機」し、そこから利益を引き出そうとする「プロモーター」なのである。
 オーストリア学派の伝統に根ざしたミーゼスは、長くニューヨーク大学で教鞭をとったが、彼の弟子たちはその地で「ネオ・オーストリア学派」を形成し、アメリカでは少数派ながら、特徴のある経済思想を築き上げていった。

Ludwig von Mises, Human Action: A Treatise on Economics,1949,the scholar's edition,1998, p.582.

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著者略歴

  1. 根井雅弘(ねい・まさひろ)

    1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1990年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は現代経済思想史。『定本 現代イギリス経済学の群像』(白水社)、『経済学の歴史』、『経済学再入門』(以上、講談社学術文庫)、『ガルブレイス』、『ケインズを読み直す』、『英語原典で読む経済学史』『英語原典で読む現代経済学』(以上、白水社)、『経済学者の勉強術』、『現代経済思想史講義』(以上、人文書院)他。

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