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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『新凱旋門物語』

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE
photo ©Julien Panie

監督:ステファン・ドゥムースティエ Stéphane Demoustier
スプレッケルセン:クレス・バング Claes Bang
ポール・アンドリュー:スワン・アルロー Swann Arlaud
ジャン゠ルイ・シュビロン:グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan

2026年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

配給:ミモザフィルムズ

[公式HP] https://mimosafilms.com/thegreatarch/

 パリの街を西方から見守る斬新な建築物、新凱旋門(グランダルシュ)は、デンマークの無名の建築家によって発案されたものだった。本作は、このモニュメント建築の裏に秘められた、一人の建築家の理想と挫折を描いた人間ドラマである。

 1983年、フランス革命200年祭をひかえ、ミッテラン大統領は大規模公共事業の目玉として新凱旋門の建設を計画する。公募のコンペで選ばれたデザインはキューブ型の斬新なアーチで、設計したのはデンマークの無名の建築家、スプレッケルセンだった。これまで母国でも小さな教会くらいしか手掛けていない彼の補佐役として、政府側はフランスの有名建築家アンドリューを推薦する。かくしてスプレッケルセンとアンドリューの協力体制で建築が開始されるが、完璧主義のスプレッケルセンは予算を顧みず、大統領補佐官シュビロンは頭を抱える。そんななか、ミッテランが選挙で大敗し、新凱旋門の建築予算が大幅に削られ、スプレッケルセンはデザインの見直しを迫られる……。

 純粋な芸術家気質の外国人が、フランスの社会的制約や政治的な思惑に押しつぶされていく悲劇を描く。主人公の建築家を、リューベン・オストルンド監督『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に主演したクレス・バングがつとめる。原題は「L’Inconnu de la Grande Arche(グランダルシュの無名の人)」。

【シネマひとりごと】

 1989年、パリの街にルーブル美術館のピラミッドや新凱旋門が登場したとき、最初は重厚な歴史的建築物の立ち並ぶパリの街にはそぐわないのでは、と思った。だが、クラシックとモダンの調和がむしろ斬新で、いまやパリの新しい魅力として定着したように思う。ミッテランが大事にしたという、ルーブル宮と凱旋門と新凱旋門がシャンゼリゼ大通りに一直線に並ぶさまは圧巻の美しさだ。その新凱旋門を設計した不遇の建築家については、『新凱旋門物語 ラ・グランダルシュ』(ロランス・コセ著 北代美和子訳 草思社)が初めて詳しく紹介した。この本をもとに作られたのが本作である。監督のステファン・ドゥムースティエは、日本ではあまり知られておらず、監督デビューは37歳という遅咲きで、『ブレスレット 鏡の中の私』(2019)で高い評価を受けた。この映画は親友殺害の嫌疑をかけられた少女の法廷サスペンスで、少女が本当に親友を殺したのかどうかは最後まで分からない。この宙ぶらりんの結末をどう見るかで観客の好みは分かれるが、ドゥムースティエ監督曰く、「余韻を重視した作品」とのこと。本作『新凱旋門物語』も、建築家スプレッケルセンに感情移入するのではなく、彼をとりまく状況をつぶさに追いながら、空回りして絶望していく主人公を淡々と描き、墓地でのラストもどう捉えていいのか分からない余韻の残る結末になっている。その印象深い最後の場面に登場するのは人気俳優スワン・アルローとグザヴィエ・ドラン。数年前に監督引退宣言をしたグザヴィエ・ドランが、ミッテランの補佐官として出演している。ドランはわずか20歳で鮮烈な監督デビューを飾った早熟型の天才だが、引退宣言以来、本格的に俳優へと舵をきったのか、本作ではセコセコと立ち回る小役人演技が板についていて驚いた。そう、彼はもともと子役出身、演技は筋金入りだった。40代にしてようやく監督として軌道に乗り始めたドゥムースティエと、30代半ばで早々と引退宣言をしたドランの対比的な共同作業が興味深い。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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