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中条志穂「イチ推しフランス映画」

映画『マルセル&ムッシュ・パニョル』


©2025 WHAT THE PROD - MEDIAWAN KIDS & FAMILY CINÉMA - BIDIBUL PRODUCTIONS - WALKING THE DOG

監督:シルヴァン・ショメ Sylvain Chomet
パニョルの声:ロラン・ラフィット Laurent Lafitte
レミュの声:ティエリ・ガルシア Thierry Garcia
ジャクリーヌの声:オリヴィア・ゴタネーグル Olivia Gotanègre

2026年11月6日(金)より新宿武蔵野館他、全国順次公開

配給:クロックワークス

[公式HP] https://klockworx.com/movies/marcel

 『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督の15年ぶりとなる新作アニメーション。「プロヴァンス物語」の連作『マルセルの夏』『マルセルのお城』の原作者として有名なマルセル・パニョルの生涯を美しい映像で辿った、事実に基づく物語。

 1956年パリ。61歳の国民的小説家マルセル・パニョルは雑誌連載の仕事を依頼される。書き出しに苦労していると、少年時代の自分が突如現れ、二人で対話をして記憶を辿りつつ人生を振り返ることになる。南仏での両親との思い出、書くことが大好きだった子供時代、田舎からパリに出たときの高揚、パリで高校教師をしながら本を執筆した苦難の時……。そしてマルセイユの方言で書いた戯曲『マリウス』が大ヒットして一躍有名になり、当時まだ主流ではなかったトーキー映画に強く惹かれ、『マリウス』『ファニー』『セザール』のマルセイユ三部作をトーキーで大成功させる。さらに撮影所や現像所も備えた映画会社を設立して本格的な映画製作に乗り出し、映画監督として史上最年少でアカデミー・フランセーズ会員に選出される。こうしてパニョルは、南仏の風土の美しさを描き、人情味あふれる作風でフランスの国民的人気作家となった。その人生をノスタルジックな映像美で綴った、パニョルヘの敬意に溢れた作品である。

【シネマひとりごと】

 日本で1990年代に起きた「南仏プロヴァンス」ブームは、ピーター・メイル著『南仏プロヴァンスの12か月』が巻き起こしたが、その少し前、パニョル原作の映画『マルセルの夏』『マルセルのお城』の大ヒットが、プロヴァンスに対する憧れや郷愁の下地となっていたのだろう。これらの映画はパニョルが雑誌『Elle』に書いた自伝がもとになっている。

 パニョルの南仏びいきは、戯曲『マリウス』などマルセイユ三部作に明らかだが、初期のトーキー映画を代表するこの三本は、サイレント時代の演技を引きずっており、かなり演劇的だ。主人公の娘は両手を広げて天を仰ぎ「驚愕」を演じ、顔を覆って崩れ落ちて「絶望」する。俳優レミュが演じる頑固親父はテーブルをひっくり返し「激怒」を表すなど、着ぐるみ演技のオンパレードだ。ただ、大仰な演技にいささか疲れはするものの、三作を通して見ると、マルセイユの市井の人々の人情が家族のような親密さで観客の心に入り込んでくる。山田洋次がこの連作に衝撃を受けて「寅さん」シリーズを作り、のちに『マリウス』を舞台化するほど心酔した、ザ・人情物語なのである。

 マルセイユ三部作が賑やかな港町の泥臭い人情話なら、のちの「プロヴァンス物語」はのどかな山々を舞台にした美しい子供時代の思い出だ。パリに憧れて南仏から上京したものの、パニョルが終生描き続けたのは故郷の風土と人々の魅力だった。本作は彼の創作の秘密と人生を案内する絶好のアニメーション作品となった。

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著者略歴

  1. 中条志穂(ちゅうじょう・しほ)

    翻訳家。共訳書コクトー『恐るべき子供たち』、ジッド『狭き門』

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