進化するシーズン・プレゼンテーション
今回は少々趣向を変えて、毎年3月から4月にかけて行われるシーズンプログラムのプレゼンについて触れてみたい。
コロナウィルスで都市閉鎖になるまでは、これらのプレゼンは特にオペラ劇場にとって一年の重要なイベントで、専門のプレス関係者を招いた記者会見のあと、一般向けのプレゼンを行い、その直後、または次の日から年間予約を開始するというシステムが採用されていた。9月からの新しいプログラムを劇場の総裁や芸術監督が紹介し、その合間にアーティストによる演奏がところどころ入るという具合だ。昔から伝統的に5〜6月に行われていたが、ここ15年ほどの間に年々その時期が早くなり、コロナ禍直前には、ヨーロッパの主だったオペラハウスは3月初めや、極端なところでは2月中に次のシーズンを発表するという状況だった。どこよりも早く発表して観客を取り込もうという競争の相を呈していたのだ。その反面、地方都市の劇場は夏の休暇の前後の発表を維持。有名大劇場と地方の中小劇場が別の速度で動いている感じがあった。しかし、都市閉鎖によりそのリズムと形式が崩れ、現在では、オンラインのみでプレゼンをするところや、プレゼンなくサイトに新プログラムをアップして年間予約受付を開始するところが増えている。
オペラ・コミックでは芸術監督で指揮者のルイ・ラングレ(左)が観客と至近距離でプレゼン© Clara Liu Mifune
パリ・オペラ座25-26年シーズン ポスター(クレジット無)
パリ・オペラ座来シーズン記者会見の様子 ©E. Bauer - OnP
今年のパリを例に取ると、3月下旬にシャンゼリゼ劇場が先陣を切り、劇場に観客を集めて新しい総裁がプログラムを紹介。同時に、一新したロゴやヴィジュアルを発表し強いインパクトを狙った。オペラ・コミック劇場は記者会見なく一般向けのプレゼンを行う一方、パリ・オペラ座は記者会見後に日を改めて一般向けのプレゼンを行い、これをインターネットで世界中に同時中継した。そんな中で際立っていたのがパリ市立シャトレ劇場のプレゼンだ。根っからの演劇人間で世界最大級のアヴィニョン演劇祭の芸術監督だったオリヴィエ・ピィが2年前に同劇場の芸術監督に就任。独特のトーク術に加え、多くのアーティストを招いてプレゼンを完全にショーに変貌させた。「全ての人に開かれた」という劇場のモットーを強調し、DJ、ブレイクダンスのバトル、マヌーシュジャズ、オペラ、ミュージカル等々、1時間余りを絶妙なタイミングで進行。プログラミングに明確なポリシーがないというこれまでの批判的な意見を逆手に取り、豊かなバラエティ性を披露した。
パリ市立シャトレ劇場の来シーズンポスターの一例 © Thomas Amoureux