外出規制解除後の『町人貴族』
6月半ば以降再オープンした劇場や文化施設の中でも、初日の6月18日から7月25日の千秋楽まで連夜、収容人数を満席にしてスタンディングオべーションの大人気を博したのが、コメディ・フランセーズで上演されたモリエールの『町人貴族 Le Bourgeois gentilhomme』だ。演出は主演のクリスティアン・エックChristian Hecqとヴァレリー・ルソールValérie Lesort。ルソールは彫刻や人形などを制作して演出にうまく利用することで知られている。数年来エックとコンビを組んで、イマジネーションあふれる、滑稽に陥る一歩手前の演出を披露し、権威ある「批評家協会賞」を何度も受賞している。今回の『町人貴族』は、前半はシックな黒を基調に、ジュルダン氏のマンガチックな衣装と振る舞いや、吸血鬼ノスフェラトゥ風の怪しい哲学教師を演ずる人気俳優ギヨーム・ガリエンヌの演技などがおおいに笑いを誘う。第4幕のトルコの儀式では、日常生活で使う用具(ランプシェード、トイレットペーパーなど)を駆使して異国風の「正装」にしたほか、全体を通してリュリの音楽をバルカン風にアレンジしアコーデオンと金管楽器で演奏するなど、奇想天外なアイデアがいっぱい。遊び心溢れるきわどい演出を、フランス演劇界で最も格式高いコメディ・フランセーズの俳優たちが「大真面目に」面白おかしく演ずるという、そのミスマッチが大いに受け、さらに外出規制解除の開放感も加えて、やんやの大喝采。外出規制中、コメディ・フランセーズはこれまでのアーカイヴや新しい朗読などを連日オンラインで配信したが、その大部分は引き続き視聴可能だ。
遊び心溢れる演出で大喝采を浴びた『町人貴族』
© Christophe Raynaud de Lage, coll. Comédie-Française
さて、文化活動の再開がやっと軌道に乗りかけた矢先の7月12日、マクロン大統領が再びテレビ演説を行い、デルタ株による第4波を想定した新たな対策を提示。これまで1000人以上収容の催しに適応されていた衛生パス(パス・サニテール)の提示を、50人以上の催し全てに義務化する方針を打ち出した。折しも夏のフェスティバル真っ盛りの7月で、すでにチケットを購入している人も多い。さらに8月以降は旅行やレストラン、大規模商店などにもパスが適用されるとあり、大統領演説後から48時間で、ワクチン接種予約が実に約400万件にのぼった。今後この政策の動向が気になるところだ。
◇初出=『ふらんす』2021年9月号