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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

水辺で涼しく過ごす夏

 今年のヨーロッパは各地で軒並み40度を記録する猛暑だった。そんな暑かった夏を少しでも涼しく過ごさせてくれた水辺のスポットを紹介しよう。

 先月号でも紹介したリールから、電車で30分ほどのルーベRoubaix 市に、かつての一大保養施設だったプールと湯治用浴場を改装した、ラ・ピシーヌ美術館La Piscineがある。ピシーヌとはその名もずばり「プール」の意。アール・デコの建築と青を基調とした美しいモザイクをそのまま利用。プール部分は両側に彫刻ギャラリーを設置し、中央部に水を残している。昔の給水用蛇口から流れる小川のような水の音が心を和ませてくれる。プールの脇にずらりと備え付けられていたシャワー室は展示ウィンドーに。この地方のアーティストの作品を中心に多岐にわたる作品を収蔵している。かつてリールとともに北仏産業圏を形成していたルーベは、テキスタイルで栄えていた。往時の繁栄を物語る布や衣服(オートクチュールも含む)のコレクションも豊富。ぜひ訪れたい美術館だ。


リール郊外ルーベの「ラ・ピシーヌ美術館」
筆者撮影

 フランスで海といえば地中海。海の見える場所に舞台を特設して野外で行われる夏の音楽祭は多い。モナコとイタリアの間に位置し、レモンをはじめとする柑橘類で有名なマントンMantonの音楽祭は、夜のメインコンサートを高台にそびえる大天使ミカエル聖堂の前に設置された舞台で開催。海岸の喧騒を遠くに聞きながら、クラシックとジャズの名演を堪能できる。今年は日本のピアニスト、辻井伸行も登場し、耳の肥えた聴衆をうならせた。日中には市内の公園で、ヤマハのサイレントシステムを利用した演奏会(演奏家も聴衆もヘッドフォンを装着)が開かれ、新しい音楽体験が好評を博した。


マントン音楽祭の会場。海を臨むサン・ミシェル聖堂の前のメインコンサート会場。
筆者撮影

 地中海と並んで人気の高いブルターニュの海。この地方南部の海に浮かぶ島、ベル・イルBelle Îleでは毎夏、すべて住民の手作りによるオペラ祭、リリック・アン・メールLyrique en mer音楽祭が行われる。世界各地から集まったソリストを除いて、合唱も衣装も舞台もすべてここでプロデュース。名勝の地に舞台を移した野外コンサートも毎回大盛況だ。昼間海で泳いでリラックスし、夜にコンサートという贅沢なバカンスを存分に楽しめる魅力あふれる10日間だ。


ブルターニュ、ベル・イルの音楽祭。野外でのガラコンサートの様子。
© Lyrique en mer


ベル・イルのガラコンサートの会場の向こうは岩場。
筆者撮影

◇初出=『ふらんす』2022年10月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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