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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

音楽家のワンマンショー

 プロのクラシックの音楽家が、演奏活動の傍ら、演劇の一人芝居やワンマンショーで活躍する例が増えている。以前からクラシックをネタにしたお笑い系のショーはあるし、演出付きの朗読コンサートなどで作曲家を演ずる演奏家はいる。しかし最近は、俳優も顔負けの演技をするケースが見られるのだ。その先駆的な例はピアニストのパスカル・アモワイエル。リストの生涯を演劇化したものや、ベートーヴェンのピアノソナタにおける探求を追うものなどを舞台化している。後者は今春、東京のラ・フォル・ジュルネでも上演されたので観た人もいるかもしれない。


作家ロマン・ロランの最後の考察を描いた『Dernières notes』より
© Studio Hébertot

 さて、9月から10月までパリ17区のStudio Hébertotで上演された二つの作品は、現在の傾向をよく表している。『Dernières notes』は作家ロマン・ロランが死の数日前に世界情勢を中心とした哲学的考察を独白するという内容。ロランを演ずるのは、舞台に早変わりする改造した中型トラックにピアノと小道具を積み込み、コンサートホールのないフランス中の農村部をツアーする「uNopia」というプロジェクトを数年前から展開中のピアニスト、ギレム・ファーブル。音楽に精通していたロランは死の数日前にベートーヴェンの最後のソナタを演奏したという逸話の通り、最後にはこのソナタを全曲演奏して劇が閉じられる。

 


モーツァルトの生涯をテーマにしたワンマンショー『Gang Wolf Mozart Stand-Up』のポスター

 『Gang Wolf Mozart Stand-Up』はその名の通りスタンド・アップ・コメディ。ピアニストのフランソワ・モスケッタが、モーツァルトの生涯を、まるで友人がしでかした失態や突飛な行動を仲間同士で語るように、若者言葉で生き生きと語っていく。彼自身が自分のリサイタルで行なっていた曲目や作曲家の解説をまとめたものだ。ポップやラップなども交え、また客席参加もある舞台では、超有名曲も一部または全曲を演奏。若い世代の音楽家に特に顕著な、ジャンルを超えたアプローチが生かされている。

 


ルイ・ジャンモ展ポスター


Dürer : Albrecht Dürer, Adam et Ève, 1504, burin, Petit Palais, musée des Beaux-arts de la Ville de Paris
© Paris Musées / Petit Palais

 最後に展覧会情報を。オルセー美術館では19世紀の画家ルイ・ジャンモによる『魂の詩』という詩を伴う連作を一挙公開。プティ・パレでは同館の秘宝であるデューラー、レンブラント、ゴヤ、そして17世紀に活躍したジャック・カロの貴重な版画を展示。どちらも1月初旬まで。

◇初出=『ふらんす』2023年11月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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