ノートルダム大聖堂にまつわる展覧会
中世美術に特化したパリの国立クリュニー博物館では、2025年3月16日まで、ノートルダム大聖堂にまつわる非常に興味深い二つの展覧会が同時開催されている。一つは、フランス国立予防考古学研究所(INRAP)と協力して、大聖堂の中世彫刻装飾に焦点を当てた「ノートルダムの中世彫刻」展。もう一つは、1756年以来、大聖堂の中世写本の大部分を収蔵するフランス国立図書館(BnF)のコレクションから厳選された貴重な史料を展示する「中世図書館の至宝」展だ。
「中世彫刻」展では、通常の展示作品に加え、大聖堂の再建に伴って2022年から行われている前代未聞の学術調査と修復プログラムの成果をもとに、初公開の彫刻や復元された断片を紹介。今回の考古学調査で発見された1230年代のジュベ(一般席のある身廊と儀式空間を仕切る壁)の断片30点も初公開されている。修復作業によって可能となったこれらの展示では、建設当時の目が覚めるようなヴィヴィッドな彩色を堪能できる。昨今の研究によって中世建築は私たちが考える以上にカラフルだったことがわかってきたが、そのサイケ美術に負けるとも劣らない強烈な色に驚く人も多いはず。
クリュニー中世美術館での展示風景 © Agence LE MENU - Arthur M.Burt ; musée de Cluny – musée national du Moyen - copie
かつての色彩をわずかに残す天使像。クリュニー美術館のフェイスブックページより © GrandPalaisRmn _ Michel Urtado
ジュベから発見された頭部。澄んだ青い目は何を見つめてきたのだろうか © Denis Gliksman, Inrap
火災後の発掘調査でジュベから見つかった彫刻 © Denis Gliksman, Inrap
発掘調査で出土した品には、当時の彩色を鮮やかに残すものも多い © Denis Gliksman, Inrap
色彩が美しい出土品 © Agence LE MENU - Arthur M. burt, musée de Cluny – musée national du Moyen Âge
フランス国立図書館所蔵のノートルダム大聖堂の中世写本は300点に及ぶ膨大なものだが、「中世図書館の至宝」展ではその中から約40点を厳選して紹介する。当時、大聖堂の図書館は神学を学ぶ貧しい学生にも開放され、最初期の「公共」図書館の一つと考えられている。豪華な典礼書をはじめとする教会関係の蔵書に加え、アンシャン・レジーム下で聖歌隊員クロード・ジョリーが寄贈した中世写本コレクションにはいくつもの注目すべき作品が含まれる。展示作品の中には、メロヴィング朝(6世紀)の聖職者トゥールのグレゴリウスによる『フランク史』や、欧州初の「女性職業作家」クリスティーヌ・ド・ピザンの『女の都』(1405)の最古の写本もある。後者は女性に向けて女性によって書かれたヨーロッパ初の書物として有名。これらの展覧会で歴史に想いを馳せてみてはいかがだろう。
ノートルダム大聖堂が描かれた中世の写本 © Agence LE MENU - Arthur M. Burt, musée de Cluny – musée national du Moyen Âge
ノートル・ダム大聖堂と聖堂参事会の囲い地。1599年のパリの地図(部分)。BnF (https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/btv1b53061721b/f1.item.zoom#)
トゥールのグレゴリウス著『フランク史』8世紀第一四半期 © Bibliothèque nationale de France
クリスティー ヌ・ド・ピザン著『女の都』15世紀第一四半期 © Bibliothèque nationale de France
この16世紀のノートルダム祭儀書は、2022年に仏国立図書館の手稿コレクションに入った © Bibliothèque nationale de France
ジェラール・ド・モンテギュー所有の典礼書より 15世紀 Paris, Musée de Cluny - musée national du Moyen Âge © IRHT - Gilles Kagan
仏国立古文書館所蔵 ノートルダム大聖堂の司教と修道士の宣誓書 13-14世紀 © Archives nationales, AE_II_275