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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

知られざる名作と巨匠の傑作に出会う秋冬のフランス美術シーン

 例年9月から始まる新年度は展覧会がとくに豊富だが、今年は例年以上に幅広く、超有名画家から、作品は有名だが名前はあまり知られていない画家、ほとんど馴染みのない画家まで、多彩な様式の高水準な作品を楽しむことができる。

 まず注目されるのはルーヴル美術館のジャック゠ルイ・ダヴィッド展。革命期から帝政期にかけて歴史画や肖像画を数多く残し、ナポレオンの公式画家としても活躍したダヴィッド。《マラーの死》や《サン・ベルナール峠を越えるボナパルト》、《ナポレオンの戴冠》などで広く知られている。展覧会は、激動の時代を描いた彼の作品を通して、画家がどのように社会へ関与できるかを問うものともなっている。1989年の回顧展から35年、没後200年を記念する大規模な回顧展。1月26日まで。

 ジャックマール゠アンドレ美術館では、蝋燭の光を巧みに描いたことで名高いジョルジュ・ド・ラ・トゥール展が開催中。現存する作品はおよそ40点とされ、そのうちアトリエの画家によるものやデッサンも含めて約30点が一堂に集まる。近年になって真筆と認められたものの議論が続いている作品もあり、鑑賞者は美術史の現在進行形の議論に立ち会うことができる。作品の脆さにより輸送が困難で借りられなかった一部を除けば、画家のほぼ全貌を味わえる展示だ。1月25日まで。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 『新生児』© V. Okada


対で制作されたと考えられている東京富士美術館所蔵の『煙草を吸う男』とルーヴル・アブダビ所蔵の『火鉢を持つ少女』が並んで展示 © V. Okada

 パリ東駅から地方線で1時間ほどのノジャン゠シュル゠セーヌにあるカミーユ・クローデル美術館では「パリの女性彫刻家」展が開かれている。クローデルはしばしばロダンとの関係で語られるが、それ以前に傑出した彫刻家だった。彼女の時代には他にも多くの女性彫刻家が活動しており、彼女たちの力強い制作を時代的背景に位置づけ、作品の価値を改めて示す。1月4日まで。1月31日からトゥール美術館、6月27日からはブルターニュ地方ポン゠タヴェン美術館へ巡回する。当時の彫刻界や、カミーユ・クローデル自身の仕事を総合的に紹介する常設展も必見。


彫刻家カミーユ・クローデルの家を改装した美術館 © Musée Camille Claudel


カミーユ・クローデル博物館の女性彫刻家展から © V. Okada

 そのほか、18世紀フランスの画家ジャン゠バティスト・グルーズの展覧会にも注目。英国・米国で人気が高いがフランスではあまり知られていない。彼が得意とした子供をテーマに、プティ・パレが総力をあげて開催するフランス初のモノグラフィー展覧会。1月25日まで。


グルーズが描いた娘ルイーズ・ガブリエルの肖像。右が2歳、左が3歳の時のもの © V. Okada


グルーズはデッサンにも長けていた。『父の呪い 恩知らずの息子』の習作 © V. Okada

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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