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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

二つのスーラージュ展

 2022年、102歳でその生涯を閉じたピエール・スーラージュPierre Soulagesは、「黒の画家」として知られ、現代美術に大きな足跡を残した。彼の作品を紹介する二つの展覧会が、現在モンペリエとパリで開催されている。

 

 モンペリエのファーブル美術館では、画家の故郷ロデーズにある美術館と緊密に連携し、普段は公開されない作品を含む特別な展覧会が行われている。スーラージュは若き日にモンペリエの美術学校で学び、同美術館に多くの作品を寄贈した。1951年から2012年にかけて制作された34点を所蔵するこの美術館は、世界で最も多くスーラージュ作品を保有することで知られている。展覧会のタイトルは「ピエール・スーラージュ 出会い」。その名のとおり、画家の人生と創作における「出会い」を軸に構成されている。まず、学生時代、青年時代に出会い大きな影響を受けた作品を通して、スーラージュの特徴である「マチエール(物質感)」の形成をたどる。続くいくつかのセクションでは、自らとの出会い、つまり画風の確立と深化の過程に焦点を当てる。黒という色を極める以前、スーラージュは青・赤茶・オークルなど多彩な色を用いた作品や、実験的な技法にも取り組んでいた。中でも注目すべきは、彼の全作品で唯一、白のみで描かれた油彩作品と、1970年代に制作されたブロンズ作品である。これらを通じて、黒一色のイメージにとどまらない、多面的なスーラージュ像が浮かび上がる。会期は1月4日まで。


モンペリエ・ファーブル美術館のスーラージュ展から
© Musée Fabre de Montpellier Méditerranée Métropole


モンペリエ・ファーブル美術館のスーラージュ展から
© Musée Fabre de Montpellier Méditerranée Métropole

 

 一方、パリのリュクサンブール美術館では、「もう一つの光」と題した展覧会が1月11日まで開催されている。ここでもロデーズ美術館から多くの作品を借り入れ、紙を媒体とした約130点の作品を紹介している。スーラージュは油彩と並行して紙を用いた制作にも力を注ぎ、戦後すぐに描いた太い筆致の作品群には、後に確立する独自の画風の萌芽が見て取れる。この展覧会では、黒の絵画で知られる彼のイメージとは異なる、グラフィック性の高い表現が数多く並ぶ。油彩作品では見られない、もう一つの顔と創作の幅広さを知ることができる貴重な機会である。


パリ・リュクサンブール美術館のスーラージュ展から
© Victoria Okada


パリ・リュクサンブール美術館のスーラージュ展から
© Victoria Okada

 

 黒を描き続けながらも、黒の中に光を見いだしたスーラージュ。没後もなお、その作品は新たな発見と問いを観る者に投げかけ続けている。

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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