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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

アーティストたちによる劇場占拠

 昨年12月15日のバスティーユ広場での大規模集会に続いて、3月4日、フリーランスのアーティストや、ショービジネス、劇場、旅行業界関係者などがレピュブリック広場に集い、劇場など文化施設の再開と社会保障費免除期間の延長などを要求。その直後、有志80人あまりがオデオン劇場を占拠した。そのうち約50人が劇場で夜を越し、翌日14時から劇場前広場で開かれる関係組合の総会に備えた。


レピュブリック広場での抗議デモ
© SNAM CGT

 それ以降毎日14時から総会が開かれ、要求を再確認。この運動を受けて、3月10日から劇場占拠が全国に拡大。当初パリと近郊3劇場、ストラスブール、ポーの5劇場だったものが、瞬く間に30以上の劇場に広がり、13日には海外県にまで飛び火。20日からパリ地方と北部で日中も強化された外出制限にもかかわらず、22日現在で、ベルギーのブリュッセルを含め75以上の劇場が占拠され続けている。

 政府は、美術館再オープンは4月半ば、劇場等の再開は第二四半期中の予定と発表している。しかし、これまでにも伝えた通り、文化施設での感染確率は極めて低いことがスペインやドイツでの実験で科学的に実証されており、関係者たちの間には対応の鈍さに強い怒りとジレンマが蔓延している。加えて、音楽家、俳優、ダンサーなどのフリーランスアーティストの中には、政府の援助では生活を賄いきれず、持ち家などの資産を売却せざるを得ない例も見られるなど、逼迫した状況がさらに劇場占拠運動に輪をかけている。

 そんな中、各劇場はデジタル分野に力を入れ、新しい観客層を広げている。3月号でもお伝えしたが、今回はパリ市立劇場 Théâtre de la Ville の例をあげよう。昨年10月30日から今年1月20日までの3か月で、フェイスブックライブとYouTubeで77件のライブ配信を実現。内訳は、演劇を中心に12の出し物を30公演にわけて配信したほか、12のコンサート、5つの討論会、23のラジオ番組、5件の学校・病院向けのコンテンツなどとなっている。毎回の平均視聴者数は2~3000人で、フェイスブックライブの登録者数は3か月で12.5パーセント増、期間中4万5千人が視聴。劇場再開後はデジタルをどのように活用していくかが課題となりそうだ。

◇初出=『ふらんす』2021年5月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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