現代アート in パリ
それぞれの時代で新しい地平を開いてきたフランスのアート界。パリでは、ブーローニュの森にあるルイ・ヴィトン財団や、パリの中心レアール地区に昨年オープンしたブルス・ド・コメルス(ピノー・コレクション)で、現代アートに対する二つの異なったアプローチを楽しむことができる。
ルイ・ヴィトン財団では20世紀の作家による大規模な展覧会をメインに据え、コンテンポラリーアーティストの展覧会をそれと連携した形で開催することが多い。現在、ジョアン・ミッチェル(1925-1992)の回顧展と、モネの最晩年の《睡蓮》とミッチェルを対比させた展覧会が並行して開催されている。ミッチェルはポロックなどに代表される抽象表現主義に連なる画家で、最近の女性アーティストの再評価とともに再び大きく注目されている。彼女の絵画はゴッホに大きな影響を受けながら発展してきたが、晩年のモネ作品と並べて展示した時、その近似性に驚かされる。モネの作品は額を取り払って展示されており、カンバスの縁に残る白地がミッチェルの作風に共鳴している。
モネの作品と対比させた、ジョアン・ミッチェル回顧展
© Victoria Okada
また、モネの再評価に大きな役割を果たした『アガパンサス三部作』がパリで初めて一挙公開。
モネ『アガパンサス三部作』
© Victoria Okada
思いがけない対比を根拠づけて雄弁に見せるこの展覧会は、キュレーターの審美眼の勝利でもあるだろう。2月27日まで。
モネ=ミッチェル展の入り口
© Victoria Okada
ブルス・ド・コメルスでは、若いアーティストを中心に、現在の美術の動向をリアルタイムで追うことのできる展覧会を積極的に開催している。2月8日からは「嵐の前に」という総タイトルで、15人の現代作家が気候変動を背景に近い将来にやってくるであろう「嵐」を表現する作品を展示する。中でも1975年ヴェトナム生まれのヤン・ヴォーはメイン展示場に「トロペアオレウム」と名付けたインスタレーションを設置。石、金属、コンクリートでできた温室内に、フランスの森で落雷に遭って朽ちかけている木の幹や枝が、クレイグ・マクナマラが所有する持続可能な森から切り出して造った支え木で支えられている。しかしクレイグは、ヤン・ヴォーが祖国を離れるきっかけとなったヴェトナム戦争の立役者である国務長官の息子なのだ……環境問題と政治が連鎖していることを考えさせられる作品。4月24日まで。
ヤン・ヴォーのインスタレーション「トロペアオレウム」
© Danh Vo
◇初出=『ふらんす』2023年2月号