フランスの地方都市で見る春の展覧会
フランスは世界有数の美術館の国。パリだけでなく、各地に面白い美術館がたくさんある。ノルマンディ地方ドーヴィルの「レ・フランシスケーヌ」は、かつてのフランシスコ会女子修道院を改装して2021年5月にオープン。美術館、図書館、ホールが一体となった新しい空間だ。そこで今、ポップアートに焦点を当てた「エスプリ・ポップ」(6月25日まで)とアーヴィング・ペン写真展(5月28日まで)の2つの現代アート展が開かれている。とくに後者は、パリのヨーロッパ写真博物館所蔵ペン・コレクションの全作品109点を一挙に公開。ニューヨークの街角で撮られた最初期の写真から、モード写真、アート界の主要人物のポートレートなど、1939年から2007までの活動期間全体でペンが扱ったあらゆるテーマを網羅している。
Irving Penn : Saul Steinberg in Nose Mask, New York, 1966 Collection MEP, Paris
© Condé Na
Irving Penn : Edith Piaf (1 of 3), New York, 1948 Collection MEP, Paris
© The Irving Penn Foundation
パリ北駅から小1時間の場所に位置するシャンティイ城内のコンデ美術館には、門外不出の貴重な肖像画を多く含む膨大なコレクションがある。その中から、16世紀の宗教戦争で分断された仏王家にまつわる人々の肖像画を集めた展覧会が5月21日まで開催中だ。王を筆頭に、同じ家系の人物たちが、カトリック教徒とユグノー教徒(16世紀後半フランスとナヴァーラ王国のカルヴィン派新教徒)に分かれて争いあった歴史を、肖像画を中心に紐解く。関連展覧会として、エクアン城ルネサンス博物館の「アントワーヌ・カロン」展(7月3日まで)と、パリ軍事博物館の「憎しみの藩閥」展(7月30日まで)がある。前者ではイタリアのウフィツィ美術館から有名な「ヴァロア・タペストリー」全部が、4世紀の時を経て初めてフランスに里帰りする。後者は甲冑をテーマに宗教戦争を描く他、欧州で初めて個人の宗教の自由を規定した「ナントの勅令」のオリジナルが特別に出品される。
visage des guerres... 展覧会ポスター
Marguerite de Valois
フォトアーティスト、サビーヌ・ピガールは、自身が撮影した様々な人のポートレート写真を、肖像画ギャラリーの作品と融合させて、独自のデジタルアートを作り出す。「マルグリット・ド・ヴァロア」(マルゴ王妃)
© Sabine Pigalle
古代円形競技場とデニム生地で有名な南仏ニーム(デニムの語源はde Nîmes)。その近くにある美術館カレ・ダールCarré d’Artは今年30周年を迎える。南仏のコンテンポラリーアートのシーンで草分け的役割を担ってきた同美術館が、「誕生日」の5月9日から9月17日まで(一部6月と12月まで)市内の複数の場所で所蔵コレクションを一挙に展示。普段は未公開の多くの作品を見ることができる。日本の河原温(かわらおん)の作品も。
紀元1世紀建立のローマ建築「メゾン・カレ」から「カレ・ダール」を望む
© Dominique Marck - Ville de Nîmes
「新リアリズム」展示室
© C. Eymenier
【URL】
レ・フランシスケーヌ www.lesfranciscaines.fr
シャンティイ城 www.chateaudechantilly.fr
カレ・ダール美術館 www.carreartmusee.com
◇初出=『ふらんす』2023年5月号