オペラシーズン 稀少作品でオープン
9月から12月にかけて次々と新シーズンがスタートした各地のオペラ劇場。珍しい作品がずらりと並んだ。
リール・オペラはアンドレ・カンプラの『イドメネオ Idoménée』で開幕。フランスでは1990年代に上演されたきりだ。筆者が見た2回目の公演では、主要な登場人物を歌う歌手が直前にPCR検査で陽性反応となり、他の役で出演の歌手3人が急遽、役を分担。開幕を30分繰り下げ、その間に楽譜を読んでぶっつけ本番という綱渡り上演。陽性者が出た場合の規定として、歌手もコーラスもマスクをつけて歌ったが、プロの面目躍如の大成功で終了した。
ナンシーのロレーヌ・オペラではイタリア・バロックの作曲家ロッシの『魔法にかけられた宮殿 Il palazzo incantato』が。昨年ディジョンで上演されるはずが中止となって無観客で収録されるにとどまり、今回が観客の前での初上演。ビデオを効果的に使い、魔法による幻想の中に生きる人間と神々の葛藤を描いた。
ストラスブールのラン(ライン)・オペラでは、ヴェルディの知られざる名作『スティッフェーリオ Stiffelio』。これもフランスでは1990年代に一度上演されたのみだ。プロテスタントの神父が妻の不貞を前に宗教者としての葛藤に悩むというテーマ。タイトルロールを歌った若きテノール、ジョナサン・テーテルマンJonathan Tetelmanが素晴らしい歌声を聴かせた。
パリのオペラ座では、歌唱と演劇をマッチさせた『マリア・カラスの7つの死 7 deaths of Maria Callas』という新作(音楽はベリーニ、ビゼー他からの抜粋)で開幕した後、1936年に同劇場で初演されて以来忘れられていた、ルーマニア出身の作曲家エネスコの唯一のオペラ『エディプス OEdipe』が舞台にかかった。
同じくパリのオペラ・コミック劇場では、シーズン第二作目として1948年生まれのフランスの作曲家フィリップ・エルサンPhilippe Hersanの新作オペラ『閃光 Les éclairs』が上演された。交流電流 を実用化したニコラ・テスラの生涯を描く。作家のジャン・エシュノーズJean Echenozが今回初めて自作小説を台本化したことでも話題をさらった(小説の邦題は『稲妻』)。
ジャン・エシュノーズ原作の新作オペラ『閃光』
© S.Brion
先月号に引き続き、展覧会では、ジャックマール・アンドレ美術館のボッティチェリ展と、フランス国立図書館でのボードレール展が話題。どちらも初公開の作品を含んだ、絶対に見逃せない内容だ。
◇初出=『ふらんす』2022年1月号