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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

新しい試みのショーを観る

 とにかくオリジナリティが求められるフランス。今回は音楽での目新しい試みを紹介しよう。

 シャトレ劇場で6月末、渋谷慶一郎によるアンドロイド・オペラ®『MIRROR』が上演。3月にドバイで行われた世界初演の後、パリ公演のために新曲を作曲。メインは、AIで生成されたテキストをアンドロイドが即興的に歌い、それに仏教僧による声明と現地オーケストラの演奏が重なるというもの。パリ公演では、アンドロイドはさらに進化を遂げた「オルタ4」となり、海外初披露だった。劇場内のスタジオでレジダンスアーティストとして創作活動を行ったというが、ほど近い場所にある世界最先端の電子音楽研究所IRCAMとのコラボレーションがなかった(少なくともその情報はない)ことが非常に意外だった。


シャトレ劇場でのアンドロイド・オペラ ® Mirror の上演の様子。
©Thomas Amouroux


シャトレ劇場でのアンドロイド・オペラ ® Mirror の上演の様子。
©Thomas Amouroux

 そのIRCAMでは、ManiFeste現代音楽祭の一環として、ヴェルサイユバロック音楽センター(CMBV)と共同で数年をかけて行われる「ジャヌスプロジェクト」の初コンサートがやはり6月末に行われた。本年1月に再オープンした、音響変化が自由自在のホール(本年3月号参照)でのコンサートで、ヴェルサイユ宮殿礼拝堂の響きを再現。バロックレパートリーと現代作曲家フィリップ・エルサンの曲はこの響きで、一方、バロックにヒントを得ながらも街や自然の音を導入した世界初演曲はそれとは全く別の響きで、リアルタイムで調整しながら、いずれもCMBV合唱団・バロックアンサンブルが演奏した。ジャヌスプロジェクトは、バロックをどのように電子音楽に導入するか、歴史を経て現代に残された音楽に電子音楽がどのように関わっていくのかを探る、CMBVにとってもIRCAMにとっても全く新しい試みだ。


ヴェルサイユバロック音楽センターとIRCAMの新しいコラボレーションによるジャヌス・プロジェクトの初コンサート。
© Victoria Okada

 ドイツ国境の街コルマールで3年ぶりに開催された国際音楽祭では、7月はじめ、ミシュラン星付きレストランのシェフとのコラボレーションコンサートが行われた。ムソルグスキーの『展覧会の絵』の中の数曲にインスピレーションを得た一口サイズの料理を、当該曲の演奏中に味わうというもの。ディナーコンサートではなく、コンサートの客席でディナーボックスをいただくという新しいコンセプト。


コルマール音楽祭のコンサートでいただいた一流シェフの一口料理。
© Florence Riou

 バスティーユ・オペラでは、来年のパリ・オリンピックの開会式の芸術監督である人気演出家トマ・ジョリーの演出で、グノーの『ロメオとジュリエット』が上演され大人気を博した。


オペラ・バスティーユでのグノー作曲『ロメオとジュリエット』。ガルニエ宮の階段をモチーフにした舞台装置と照明演出が印象的。
© Vincent Pontet


今シーズン最高のオペラ上演と評されたバンジャマン・ベルナイム(ロメオ)とエルザ・ドライジグ(ジュリエット)の素晴らしい声と演技。
© Vincent Pontet

◇初出=『ふらんす』2023年9月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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