パリ五輪の余韻と美術シーズン開幕
先月号で、オリンピック・パラリンピック競技の期間中、パリの美術館が閑散としていたと伝えたが、9月に発表された具体的な数字によると、入館者数は平均して30パーセント減、場所によっては40パーセント減にまで落ち込んだという。主な原因は、競技に伴う交通規制と、期間中のパリ訪問者層が普段と大きく異なり、スポーツ以外には関心を示さなかった人が多かったことにある。別の見方をすれば、スポーツ観戦の合間に美術館に足を運ぶ余裕やエネルギーがなかったとも言える。しかし9月からは、それを過去のことにするかのように、ぜひ足を運びたい質の高い展覧会が次々とオープンしている。ルーヴルの「ヴァトー展」と「狂人展」、オルセーの「カイユボット展」、マルモッタンの「騙し絵展」、装飾美術館の「熊のぬいぐるみ展」、ルイ・ヴィトン財団の「ポップアート展」、ケ・ブランリーの「ゾンビ展」などが挙げられる。
中でもポンピドゥーセンターの「シュルレアリスム展」(2025年1月13日まで)は必見。パリの他、ブリュッセル、マドリッド、ハンブルク、フィラデルフィアで開催の世界規模の展覧会だが、各都市ごとに展示内容が異なり、この運動における各都市の特徴や影響を強調した新しいコンセプトの巡回展となっている。また、シュルレアリスムが1945年で終結したという見解を見直し、その余韻やインパクトを1969年まで延長して捉えようとする試みも。さらに、運動の発展・普及に重要な役割を担いながらこれまであまり取り上げられなかった女性アーティストにも焦点を当てている。「シュルレアリスム」の第一義は現実を超えたもの、ということで、かつてモンマルトルに隣接して存在したキャバレー「天国」と「地獄」の、「地獄」の入り口を再現。運動の父アンドレ・ブルトンが「天国」の建物の上階に住んでいたことを彷彿とさせる演出にエスプリがきいている。
モンマルトルにあったキャバレー「地獄」のファサードを再現したシュルレアリスム展入り口 © Victoria Okada
Max Ernst, L’Ange du foyer (Le Triomphe du surréalisme), 1937, Huile sur toile, 117,5 x 149,8 cm, Collection particulière, Ph © Vincent Everarts Photographie, © Adagp, Paris, 2024
Suzanne van Damme, Composition surréaliste, 1943, Huile sur toile, 90 × 100 cm, RAW (Rediscovering Art by Women)
Ph © Collection RAW (Rediscovering Art by Women), Droits réservés
1945年以降の動きも紹介。レオノール・フィニ「森の中の14匹の猫」© Victoria Okada
アンドレ・ブルトンの「マニフェスト」自筆稿全文 © Victoria Okada
絵画だけでなく多くのオブジェや彫刻も © Victoria Okada
展覧会では特に女性作家に焦点を当てている。写真はアルゼンチン生まれのイギリスの作家アイリーン・アガールの The wing of Augury
また、1年以上の修復改装工事をへて再オープンしたジャックマール・アンドレ美術館の「ボルゲーゼ美術館展」(2025年1月5日まで)も見逃せない。ラファエロの有名な『一角獣を抱く貴婦人』やカラヴァッジョの『果物籠を持つ少年』、小規模ながらベルニーニの彫刻など、選りすぐった名作のオンパレードを堪能できる。
「ボルゲーゼ美術館展」より ラファエロ「一角獣を抱く貴婦人」© Victoria Okada
カラヴァッジョ「果物籠を持つ少年」 © Galleria Borghese / ph. Mauro Coen
「ボルゲーゼ美術館展」では厳選された名作が並ぶ © Victoria Okada
「ボルゲーゼ美術館展」開催中のジャックマール美術館のメイン階段 © Victoria Okada
「ボルゲーゼ美術館展」内覧会で解説する学術責任者ピエール・キュリー氏 © Victoria Okada
ポンピドゥーセンター https://www.centrepompidou.fr
ジャックマール・アンドレ美術館 https://www.musee-jacquemart-andre.com/fr