竹籠の醍醐味/国家の頂点に立った犬
竹籠の醍醐味
Fendre l'air affiche
主に茶道とともに発展を遂げてきた竹工芸は、19世紀のジャポニスムの時代にもヨーロッパ人の興味の対象外にあり、これまでアートの一分野として振り返られることがなかった。20世紀半ばからアメリカの蒐集家がこれらの竹籠に注目し始めたことで、ヨーロッパでもようやく日の目を見るようになったと言っても過言ではない。世界各国に固有のアートを紹介するケ・ブランリ博物館では、Feindre l’air── Art du bambou au Japon(空を割く 日本の竹工芸)と題した、18世紀半ばから現代までの竹工芸の変遷を網羅する大規模な展覧会が、ジャポニスム2018の協賛の催しとして開催されている。中国趣味の唐物からアートとしてのオブジェまで、国宝6点と人間国宝による重要な作品を中心に、フランス初公開の多くの作品を一挙に公開。主要アーティストの人物と作品を紹介するビデオや、理解の助けとなる作品制作の過程を見せる動画なども貴重だ。新しい日本のイメージを創造する展覧会。4月7日まで。http://www.quaibranly.fr/fr
国家の頂点に立った犬
©︎Klara_Beck
ライン・オペラOpéra du Rhin では、年末年始公演としてストラスブールとミュルーズでBarkouf ou un chien au pouvoir(バルクフ、権力についた犬)というオッフェンバックのオペラが、なんと1861年以来初めて舞台にかかった。政治危機に晒された独裁体制のある国で、不在の国家元首が帰還するまで犬が国のトップに任命され、奇想天外な出来事が巻き起こるというストーリー。台本では、高すぎる税金や破綻したシステムに民衆が抗議し、もともとの犬の飼い主だった市井の若い女性が最高顧問に任命され、民意を優遇する犬語の「通訳」でその場を乗り切る。第一幕の民衆の衣装はオレンジで統一されていたが、折しもフランス各地では「黄色いベスト」による政府への抗議デモが盛んに行われていた時期で、否が応でも時事に想いを馳せざるを得ない。さらにマクロン大統領をはじめ実際の政治家の仮面をつけた登場人物が「外に漏れないように」陰謀を錬る場面は、一般フランス人の政治への疑念を代弁してくれた感があり、大いに楽しめた。https://www.operanationaldurhin.eu/fr
◇初出=『ふらんす』2019年2月号