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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

土門拳とプーランク

 第二次大戦中・戦後の激動の日本を写真に収めた土門拳は、日本では名前を知らない人はいないが、欧州ではほとんど無名。郷里、山形の土門拳記念館の全面的な協力を得て、100点あまりの作品で構成したフランス初の回顧展が、パリ日本文化会館で7月13日まで開催中だ。図らずもプロパガンダに使用された戦中の兵士や看護婦たちの写真から、戦後モダニズムに溢れたショットを経て、寺院や仏像を収めた晩年のカラー写真まで、日本の写真文化の草分けとなった作品を、時代を追って紹介する。戦後の作風は日本社会の実情を伝えるもので、とくに広島での原爆症をリアルに映し出した写真は、人々にその実態を知らせるきっかけにもなったという。一方で貧しいながらも生き生きとした笑顔に溢れた子供達を写した作品は、当時の日本の活力を伝えてあまりある。また、文化人のポートレート写真を並べた壁には、志賀直哉、川端康成、谷崎潤一郎、藤田嗣治、岡本太郎、小津安二郎と久我美子などがズラリと並ぶ。「日本リアリズムの巨匠」という副題の通り、当時の日本の飾らない真実を映し出した写真が印象的だ。

 フランシス・プーランク(1899-1963)という作曲家をご存知だろうか。オペラ『カルメル会修道女の対話』は、フランスオペラではビゼーの『カルメン』に続いて世界で最も多く上演されている名作。シャンソンの定番『愛の小径』も有名だし、絵本やアニメとして昔からフランスの子供たちに人気の、子象が主人公の『ババールの冒険』に音楽を提供している。今年没後60周年を迎える彼が、ロワール地方のアンボワーズ(レオナルド・ダ・ヴィンチが最後に住んだ館がある場所として有名)近郊に所有していた屋敷は、「ル・グラン・コトー」と呼ばれ、文化人の交流の場となっていた。当時のままに保存されている音楽サロンと庭園が夏季限定で一般公開されており、最近、文化省から「著名人の家」として公認された。そこでのサロンコンサートをメインにした没後60周年の記念の催しが、5月半ばに約1週間にわたって開催された。一帯はロワールの白ワイン「ヴーヴレ」の産地。庭園に続く葡萄畑で採れたぶどうから作るワインは「ル・グラン・コトー」銘柄の希少品として売られている。ロワール古城巡りのついでに足を伸ばし、しばし音楽に想いを馳せてみてはいかがだろう。


vin
所有地で取れるぶどうから作られたヴーヴレワイン「ル・グラン・コトー」

筆者撮影


salon de musique
当時のままの音楽サロン

筆者撮影


vu du vigne
所有地の葡萄畑から「ル・グラン・コトー」を望む

筆者撮影

◇初出=『ふらんす』2023年7月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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