外出制限下でのフランスの文化活動
ヨーロッパ各国は3月上旬から順次ロックダウン。フランスも3月17日に外出制限令が出された。4月13日の大統領のテレビ演説で7月中旬まで集会が禁止されると、それまで開催に期待をかけて様子を窺っていた夏のフェスティバルが一斉に中止・延期を発表。フリーランスが大部分の音楽・舞台関係者は生き残りが深刻に危ぶまれるケースも多く、特にオペラ歌手たちは連名で政府にさらなる支援を求める声明を発表するなど、様々な動きが起きている。
そんな中、インターネットを媒体としたライブコンサート、美術館案内、ストリーミング配信などが、活動維持の場として大きく発展している。ネットをいち早く活用し視聴数も大きく伸びたのはクラシック音楽で、逆にポピュラー、ロック、バラエティ系の音楽は減ったという。落ち着いた条件で集中して聴くことが求められるクラシック音楽の性格が、このような結果を生んだと専門家は分析する。
ネットコンサートは、音楽家が携帯などで録画してソーシャルネットワークで配信する簡単なものから始まり、今でもこれが主流だ。毎日同じ時刻にリサイタルを行う演奏家もいる。その後、オーケストラや合唱団員がそれぞれの自宅で自撮りしたものを編集した、名曲のダイジェスト版が多く出回るようになった。中でも3月30日にYouTubeに出たフランス国立管弦楽団によるラヴェルの《ボレロ》は人気を呼び、瞬く間に200万回以上の視聴数を記録。楽器のレッスンや、マイナーな楽器の紹介・演奏、ユーモア溢れる演奏動画も多彩だ。筆者はこれらの動画選を毎日フランスの総合文化サイトで紹介している(Toutelaculture.com)。
フランス国立管弦楽団によるラヴェルの《ボレロ》ダイジェスト版が配信された
©︎ONF
各種劇場も独自の配信プログラムを組み、過去の上演や、未発表の作品などを順次公開している。コメディ・フランセーズは、過去に収録された名作に加え、所属俳優による朗読など家族で楽しめる番組を毎日動画・音声で配信。パリ・オペラ座は携帯・タブレット用に新しいプラットフォーム「aria」を開設。オペラやバレエにあまり馴染みのない人を対象に、様々な角度からこれらを紹介するのが目的だ。
一方美術館は、閉鎖を余儀なくされた大規模な特別展のネット見学や、各作品を学芸員が解説する動画などに加え、ヴェルサイユ宮殿など歴史的建造物は、詳細なバーチャル訪問が充実している。所蔵作品の画像を一挙に公開する美術館や資料館も多く、例えばフランス国立視聴覚研究所INAの新しいストリーミング・プラットフォーム「Madelen」は、全コンテンツを3か月間無料で視聴できる。
個人的な芸術活動維持のための配信から、配信を通した報酬の分配方法を考える時期が来ているといえよう。
◇初出=『ふらんす』2020年6月号