女性をフィーチャーしたさまざまな企画展
男女平等が叫ばれて久しいが、フランスの芸術界では近年とくに女性作家を前面に押し出す機運が高まっている。ルーアンを中心都市とするノルマンディー地方圏では、ルーアン市内と各地の美術館が連合体を構成し、毎年同一テーマでそれぞれの特色を生かした展覧会を開催している。今年のテーマは「ヒロイン」。
ルーアン美術館では、アンドレ・ブルトンの小説のモデルとなった実在の女性ナジャに光を当てる。これまでもっぱら小説の主人公として知られていた彼女は、近年その生涯が明らかになりつつあり、彼女自身アーティストだっただけでなく、シュルレアリズム運動の鍵となる役割を果たしていたことがわかってきた。シュルレアリズムの誕生100年(2024年)の前哨戦となる大展覧会。同美術館では、ニナ・チルドレスの現代アート展も開催。11月6日まで。
ナジャ展の展示風景
© Victoria Okada
Léona Delcourt (dite Nadja), Un regard d’or de Nadja de lasérie Illustration pour Nadja.
© Paris, Musée National d’ArtMo
ニナ・チルドレス展で作品を解説するアーティスト
© Victoria Okada
ナジャ展を解説するルーアン美術館連合のディレクター、シルヴァン・アミク氏
© Victoria Okada
2016年からルーアン市で毎年展開されている現代アート展「La Ronde」。「回遊」を意味する総タイトルだが、まさに市内の各所を回って遠足気分で最先端のアートに触れられるのが特徴だ。今年は「女性複数形」をテーマに、女性アーティストの作品を集めた。世代にこだわらずさまざまな傾向(今年は具象が多い)のアートを提供している。9月18日まで。
かつてのロープ工場をそのまま博物館にしたヴァロア・ロープ産業博物館。水力エネルギー源となる小川をまたいで建つ建物には、かつての水車や大きな製造機具(一部は現在でも稼働可能)が整然と並び、往年の繁栄を偲ばせる。ここで、毛糸やフェルトを使った彫刻やインスタレーションで世界的に有名なシーラ・ヒックスの展覧会が。彼女は何度もこの博物館に足を運び、独自に毛糸を制作して作品に生かしているという。石や木などの硬い素材を思い浮かべる彫刻だが、形が自由に変わる糸や布による彼女の作品には温かみがあり、彫刻そのもののコンセプトを覆す。9月23日まで。
シーラ・ヒックス展の展示風景
© Victoria Okada
ヴァロア・ロープ産業博物館の展示風景
© Victoria Okada
音楽でも女性作曲家やその作品が続々と「発掘」されている。女性作曲家の作品のみを集めた音楽祭 Un temps pour elles「彼女たちへの時」が6月から7月にかけてパリ近郊の自然あふれるヴァル・ドワーズ県各地で開催された。聴衆は、女性というだけで忘れられていた知られざる名曲に熱心に聴き入った。
「彼女たちへの時」音楽祭で演奏するマリー・ヴェルムラン
© Composher
◇初出=『ふらんす』2022年9月号