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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

新シーズンをミニフェスティヴァルで開幕

 6月号では、新シーズンのプレゼン方法が様変わりしている様子を紹介したが、9月の開幕コンサートにも小さな変化が見られる。パリのフィルハーモニーでは、ここ数年、開幕時にヨーロッパの名だたるオーケストラが一堂に会するという流れが続いていたが、今年はそれをさらに発展させ、ミニフェスティヴァルへと昇華させた。その名も「Prem’s」。音楽ファンなら、この名を耳にするや即座にロンドンの巨大クラシック音楽祭「BBC Proms」を思い浮かべるだろう。ロイヤル・アルバート・ホールの1階席を取り払い、格安の立ち見席で楽しめる夏の名物イベントだ。このコンセプトに着想を得て、フィルハーモニーも1階席の一部を撤去し、700席の立ち見スペースを確保。これを15ユーロという破格の料金で提供する。すでに設けられている、28歳以下を対象にした11ユーロ席や最上階の12ユーロ席に加え、安価な席数を大幅に増やし、オーケストラ未体験層や若年層へアピールするのが狙い。ただし、フィルハーモニー総裁オリヴィエ・マンテイ氏は「ロンドンのPromsに対抗するつもりはまったくない」と明言している。今年の出演は、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ミラノ・スカラ座管弦楽団、パリ管弦楽団。位置によっては、オーケストラ団員の息遣いが聞こえるほどの至近距離で音楽を味わえる。


Prem'sのビジュアル © Charles d’Hérouville

 シャンゼリゼ劇場では、9月末から10月初めにかけて、2021年に女性で5人目のパンテオン偉人廟入りを果たしたジョセフィン・ベーカーをテーマにした催しが、こちらもミニフェスティヴァルの趣を呈している。セネガル系フランス人ダンサー、ジェルメーヌ・アコニーが『ジョゼフィーヌ』と題する新作ダンスを世界初演。続く第二部では、ストラヴィンスキー作曲『春の祭典』のピナ・バウシュ版を、アフリカ14カ国のダンサーが踊る。アフリカ系の母を持つベーカーへのオマージュである。そのほか、ベーカーが歌ったシャンソンをアレンジしたコンサート、南アフリカのソプラノ歌手プリティ・イェンデをはじめとする多彩なアーティストによるガラ・コンサート、子ども向けのリアルタイムでのイラスト付きお話コンサートなど、多角的なプログラムが魅力だ。正当な評価を受けてこなかった女性アーティストを再評価する動きと相まって、パリ初登場から100年、没後50年となる今年、ベーカーへの関心と再評価をさらに高める催しとなっている。


ジョセフィン・ベーカー祭のヴィジュアル © Malika Favre

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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