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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

再びの都市閉鎖と芸術

 大都市圏を中心に施行されていた夜間の外出禁止を拡大し、10月30日から全国的に始まった都市封鎖は、春に比べればかなり規制が緩和されているものの、芸術関連業界にとってはさらに大きな一撃だ。劇場、美術館、映画館などの文化施設は閉鎖を余儀なくされているが、ソーシャル・ディスタンスが最も厳格に守られているこれらの空間を閉鎖するよりも、公共機関や教育機関を閉鎖すべきだという声も多い。

 オペラ業界の現状が厳しいことは以前にも触れたが、4月に結成された歌手たちの団体UNiSSON(ユニソン)が、10月半ばにオペラ・コミック劇場で初のガラ・コンサートを開催。20時開演予定を17時に繰り上げて夜間外出禁止令に対応した。会場及びインターネットで支援金を募り、一晩で21,000ユーロ以上が集まった。(詳細はhttps://vivace-cantabile.com


オペラ・コミックでのUNiSSONのガラ・コンサート
© Christian Lartillot


コンサートの後でバシュロ文化大臣の訪問を受ける出演者たち
© A. Auriol

 さて、今回の禁止令が前回と違うのは、上演目的の舞台稽古やリハーサル、ネット配信などを伴う無観客上演が可能な点だ。ラジオやテレビなども、大部分の生中継番組が中止された前回とは違って、中継や収録はこれまで通り行われ放送されている。再び活発になったネットでのライブストリーミングでは、有料または投げ銭(基本的には無料だが、良いと思う金額をチケット代替わりに寄付すること)の演目の割合が大きく伸びている。と同時に、音楽家などが撮影・配信会社を立ち上げて仲間や同僚に出演を呼びかけこれを有料ネット配信するという例がいくつか見られる。その良い例としてRecitHallを挙げておこう。若手ピアニストのイスマエル・マルガンIsmaël Margainが技術者と実業家の友人二人と共同で創立した会社で、撮影はやはり若手ピアニストが創立した専門の他社などに依頼し、密接な共同体制で配信を実現している。6月に第1回の配信を行い、3か月後の現在はクラシックコンサート以外にもジャンルを広げ、1週間に平均3つほどのイベントを提供している。チケットはほとんどが10ユーロ以下。(www.recithall.com

 美術館も、著名人による所蔵作品の簡単な文章解説(オルセー美術館)、コレクションを題材にした独自のビデオゲーム(ポンピドゥセンター)、現在開催中および過去の展覧会のバーチャルガイド、ふだん見ることのできない作品の紹介など、趣向を凝らした内容を競い合っている。

◇初出=『ふらんす』2021年1月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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