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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

大型イベントに溢れるパリ

 この春、話題の大型イベントが目白押しのパリ。もっとも大きな催しは、なんと言っても「ラムセス ファラオの黄金」展だろう。会場はラ・ヴィレットのグランド・アール。2021年11月にアメリカ、ヒューストン自然科学博物館で始まった、世界10都市を巡回する展覧会で、パリはヨーロッパで唯一の開催都市となる。展示されている180点以上の品の中には、エジプト国外に出るのは初めてというものも。中でも、世界中でもパリ展のみの展示となるラムセス2世の棺は必見だ。1976~77年、パリのグラン・パレでの「大ラムセス」展の際、人類博物館で棺内部に繁殖した細菌を取り除く作業が行われた。今回の貸し出しは、それに対するお礼の意味が含まれているとのこと。他にも、ラムセス2世の石灰石の巨大な立像や、総重量8キロの黄金の首飾り、オストラコンと呼ばれる記録用の石灰片に描かれたラムセス4世など、王朝の繁栄を彩る多くの品に触れることができる。


ラムセス2世の巨像の頭部
©Victoria Okada

また、展覧会の準備中にある調査現場で動物のミイラが偶然発見され、猫や猿、マングースのミイラや無数の玉虫が入った石箱が展示されている。さらに、アブ・シンベル神殿やネフェルタリ王妃の墓を、ヴァーチャルリアリティで体験できるコーナーもある。


アブ・シンベル神殿の精巧な模型
©Victoria Okada


さまざまな動物のミイラが展示されている
©Victoria Okada

展示は教育目的も兼ね、豊富なビデオを駆使して古代エジプトとその王たちを広く紹介する。9月6日まで。www.expo-ramses.com

 オペラ・バスティーユでは、ジョン・アダムズのオペラ『中国のニクソン』がレパートリー入りした。1972年、当時のアメリカ大統領ニクソンが中国を電撃訪問し、毛沢東や周恩来と会見した時の様子がテーマ。ニクソンとニクソン夫人役にアメリカから大物歌手を迎え、パリ・オペラ座音楽監督のグスターボ・ドゥダメルが指揮をとるというイベント性も手伝ってか、初日にはチケットを買えなかった人が、開場前に「チケット求む」と書いた紙を掲げる様子も多く見られた。


ニクソン夫妻が北京空港に到着するシーン
©Elena-Bauer

演出はいわゆる「ピンポン外交」をことさら強調し、アジア系のエキストラを加えた集団プレイのシーンがいくつかあった。壁一面に本が並ぶ書斎での米中会談のシーンでは2段組の舞台装置の下方で文化大革命時の拷問や焚書を見せる。第3幕でニクソンと毛沢東がそれぞれ若い頃を回想する場面では、当時の中国共産党の硬いイメージとは全くかけ離れた、かなり砕けたシーンも。カーテンコールではドゥダメルが獅子舞の獅子から登場するというサービスぶりで、会場を喜ばせた。


オペラ『中国のニクソン』には獅子舞が登場
©Christophe Pele

◇初出=『ふらんす』2023年6月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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