2017年12月号 ニュイ・ブランシュ/フクシマを題材にした新作オペラ
ニュイ・ブランシュ
毎年10月最初の土曜日の夜に現代芸術を愉しもうと始まったニュイ・ブランシュNuit Blanche も今年で16年目。パリのフィルハーモニーでは20時から翌日7時まで夜を徹して一挙に5つのイベントを開催した。今年他界した電子音楽の草分けピエール・アンリにオマージュを捧げるコンサートでは、会場いっぱいにスピーカーが設置されシュールでサイケな雰囲気。ニュイ・ミニマリストNuit minimaliste はフィリップ・グラスやジョン・ケージなどのミニマルミュージックをピアノとパイプオルガンで聴く。真夜中の2時でも大ホールは満員。ラ・ニュイ・アン・ラLa nuit en la は「ラ」の音を色々な楽器でアレンジしながら10時間鳴らし続けるという奇想天外な企画。今年新装20年を迎える音楽博物館はいたるところに蠟燭を飾り、所蔵楽器を使ってバロックからエレクトロまで様々なミニコンサートを開催。オランジュリー美術館他との共催で一晩中弦楽四重奏曲を楽しむという企画も今年3 回目。入場者総数3万5千人を数え、大盛況のうちに幕を閉じた。
www.paris.fr/nuitblanche
フクシマを題材にした新作オペラ
Kein Licht DR Vincent Pontet
福島の原発事故を題材に取ったフィリップ・マヌリの新作オペラKein Licht(光なし)が、ドイツでの世界初演とストラスブール現代音楽祭ムジカでの公演を経てオペラ・コミック劇場でパリ初演された。福島を扱った物語ではなく、オーストリアのノーベル賞作家エルフリーデ・イェリネクの戯曲『光のない。』に基づいて、原子力とエネルギー資源そのものに問いを投げかける。原子力を放棄する方針を表明したドイツがフランスから原子力による電気を買う事実。トランプ大統領が地球温暖化は中国の陰謀だと主張する事実。北朝鮮によるミサイル威嚇という事実。市民生活で省エネを叫びながら大量消費を続ける事実。第二幕の終わりには、黄蛍光色の水が入った大きな容器にいくつもの穴があいて水が怒涛のごとく流れ出し、大規模停電が発生。光がなくなってしまう。会場に設置されたミキシングテーブルで作曲家がリアルタイムで操作する音楽は、電気がないと実現不可能なもの。いろんな意味で考えさせられる作品だ。
www.opera-comique.com/fr/saisons/saison-2017/kein-licht
◇初出=『ふらんす』2017年12月号