オリンピックと文化イベント
フランスでは2024年のパリ・オリンピックに向けてさまざまな動きが顕著になってきているが、期間中の文化イベントなどの開催について、政府やオリンピック関連機関と文化セクターの間でギクシャクとした関係が続いている。
直接的な話の発端は、昨年秋に内務大臣が、オリンピック期間中(7月26日から8月11日)とその前後に行われる音楽祭などの大規模イベントは中止または延期とする、と発言したこと。5月からの聖火リレー、選手村のオープニング、ノルマンディー上陸作戦80周年の記念式典、そしてオリンピック競技の後のパラリンピック大会などの警備のために多数の警官・憲兵が動員され、他のイベントの警備まで手が回らないというのが理由だ。しかし該当期間中は、世界一の規模を誇るアヴィニョンの演劇祭をはじめ、世界的にも名を知られたイベントが目白押し。これらのイベントの地元への経済効果は莫大で、コロナ禍による打撃から未だ完全に回復しきれていない当事者にとっては、再度の中止・延期は受け入れられないのだ。これを受けて2022年11月に文化大臣と当事者の代表が会合を持ち、各地方の管轄局とケースごとに話し合いを進めるという方向で一旦落ち着いた。しかしながら、現段階でも通常の日程で行われるかどうかが不確定なイベントが多く、関係者の不安要因となっている。明確なのは、アリーナやスタジアム系の会場は来年春から数か月間使用できないため、大規模なロックコンサートなどは開催できないということだ。
これにさらに油を注ぐように、パリ市は7月半ば、セーヌ川沿いのブキニスト(古本屋)たちに、セーヌ川で行われるオリンピック開会式の安全のために一定期間、「箱」と呼ばれるスタンドを撤去することを要請。中でも問題なのは、約230店のうち150店だけが箱を撤去して他に移ることを余儀なくされることだ。箱は1店につき4つまで許可されているが、何十年も前から設置されているものが多く、取り外すことさえ難しいのである。パリ市の決定は「パリの魂を抜く」として、当事者や文化界だけでなく、市民も猛烈に反対している。この原稿の執筆段階でまだ進展はないが、確かに古本屋のないセーヌ河岸など想像もつかない。何らかの解決策を待つばかりだ。
Bouquinistes©Paris.fr
© Joséphine Brueder - Ville de Paris
◇初出=『ふらんす』2023年10月号