コロナ禍のフランスの夏
都市閉鎖が解けて4か月経ち、欧州内での移動もほとんど自由になったものの、慎重を期して国外に出る人は少ない。パリの有名美術館の入館者数は例年の4割前後という統計もある。入館者の内訳は、普段は外国人観光客が6割以上を占めているが、現在は1割程度にとどまり、地元パリ地方からの訪問が最も多いという。待ち時間なしで名作に触れることができると、今までなかなか美術館に足を運ぶ機会がなかった人や、人ごみを避けていた人が多く訪れ、思いがけずも新しい客層展開となっている。
フランスは世界でも有数の音楽祭の国。ホテルやレストランなど付随的な経済活動への影響も重要なことから、政府の衛生条件をできる限り活用して開催しようという動きが強い。例えば、南仏で毎年開催されている国内最大級のラジオフランス音楽祭は、一旦全日程を中止した後、急遽、7月末の土日の2日間に10の野外コンサートの開催を決定。もともと招待されていたアーティストの中からプログラムを大幅に組み直して実現した。
モンペリエで開催されたラジオフランス音楽祭
© Marc Ginot
さて、8月14日のフィガロ紙に、ある統計を解説する記事が掲載された。6月はじめに文化専門マーケティング機関が1250人のフランス人を対象にアンケートを行い、ロックダウン中の感想、ロックダウン直後の文化機関再開への期待、そしてその後の文化参加について質問。都市封鎖中は、定期的に文化に触れているという人の63%が映画に、49%が演劇やコンサートに、45%が美術館に行けなかったことが悔やまれると答えた。文化施設再開後は、回答した人の約半数が美術館や映画館に行きたいという反面、44%もの人がコンサート、オペラ、演劇に出かけるのを躊躇し、33%が音楽祭には行かないと答えている。その上、20~30%もの人が、以前の習慣を取り戻すか疑問だとしているのだ。インターネットのストリーミング中継が大きく伸びたのは世界共通だが、これが習慣化し、来年までは映画館に行かないと答えた人が4分の1、演劇やコンサートに行かないという人はなんと半数にも達している。
折しもパリ・オペラ座の定期会員数が例年の40%以下にまで落ち込み、最も悲観的な見方としてオペラ座の存続そのものを疑問視する人もいる中、すでに大打撃を受けている文化セクターは、これまでにない新しい活路を求められている。
◇初出=『ふらんす』2020年10月号