新しい舞台創作への意気込み
シャンゼリゼ劇場 Une Petite Flûte © Vincent Pontet
2月号で新作オペラについて触れたが、数年前から、オペラではないものをオペラとして再構成したり、音楽作品を翻案して家族で楽しめるショーにしたりする動きがとくに活発になっている。
シャンゼリゼ劇場で2月に上演されたUne Petite Flûteは、モーツァルトのオペラ《魔笛》を1時間余りに短縮し、さらにいくつかのアリアや合唱を観客が歌う参加型に作り変えたもの。上演の前に30分ほど歌と手話のジェスチュアを「練習」。上演中に該当箇所に来ると、練習時のインストラクターが舞台前で立ち上がって会場に指示し、一部手話も交え皆で大合唱という具合だ。歌手もオーケストラも世界中のホールで演奏しているトップクラスのプロ。高い上演レベルを保ちつつ、家族で楽しみながらオペラに親しめる企画で、毎年異なる作品でフランス各地を巡回し、大好評を博している。
シャンゼリゼ劇場 La Petite Flûte © Vincent Pontet
同じく2月にオペラ・コミック劇場で上演されたL’Autre Voyageは、ほとんど知られていないシューベルトの作品を、複数の未完のオペラを中心に選んで物語に構成したもの。ある法医学者が死体を受け取るが、遺体は自分の分身だった。これを司法解剖した時から、自身の過去の思い出、息子の死、忘却についての考察と体験が始まる。その大部分には暗い影がつきまとうが、最後には彼の心に光がさし、人間の性(さが)は常に変化し続け完成形はないという、仏教思想的なメッセージで終わる。テレビの科学捜査シリーズのような解剖室や、1960年代風の家庭の様子を見せる舞台は、シューベ
ルトの音楽とミスマッチの感が否めないが、未完の曲の断片を集めて一貫性のあるストーリーに仕上げたことは驚くに値する。
オペラ・コミック劇場 © Stefan Brion
アテネ劇場で上演されたBirdsは、オノマトペを多く用いたリゲティの断片的な音楽《アヴァンチュール》と《ヌーヴェル・アヴァンチュール》に演出をつけ、ピーター・マックスウェル・デイヴィスという英国の作曲家のモノドラマとカップリングして二部作に仕上げたもの。歌手と俳優の表情やジェスチュアも含め、滑稽さを前面に打ち出した演出で、演奏中は客席のあちこちから笑い声が聞こえた。
アテネ劇場 Birds © Aminata Beye
このような上演には、しばしばビデオやマッピングが用いられる一方、子供を対象とした上演ではリアルタイムで絵を描いたりするなど、新しい芸術創作への意気込みは以前よりも格段に活発になっている。