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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

再開! フランスの芸術の秋

 導入時には賛成・反対意見が飛び交った衛生パスが9月以降広く定着し、芸術活動は以前の活気を取り戻している。映画館・美術館・コンサートホール前にできるパス検査の列も、見方によっては風物詩とも捉えられるだろう。

 先月号でお知らせした凱旋門のラッピングは、期間中の3回の週末に周辺が歩行者天国になったこともあり、のべ1千万人が訪れ大成功で終了。設置工事中は「美しい歴史的彫刻を隠すのは芸術への侮辱」「モダンアートという美名のもとに景観を損ねる」などと声高に叫ぶ反対派も目立ったが(目新しいものに反発するのはフランス人の常だが)、蓋を開けてみると人々はその美しさに魅了され、話題性も相まって大人気を博した。

 そんな中、10月終わりまで秋の展覧会のオープニングが真っ盛り。パリのリュクサンブール美術館では、ヴィヴィアン・マイヤー写真展。マイヤーは2009年に没したアマチュア写真家で、シカゴでベビーシッターとして働く傍ら、膨大な数の写真を撮り続けた。彼女の作品が注目され始めたのは、同年、あるコレクターがインターネットにいくつかの写真をシェアしたのがきっかけ。視点の斬新さと白黒のコントラストが美しい彼女の作品は瞬く間に有名になり、今回パリでの回顧展となった。2022年1月16日まで。

 オルセー美術館では映画の誕生に焦点を当てた「Enfin le cinéma !」(「やっと映画のお目見えだ」)展が開催されている。生まれて間もない写真、最初期の動画、カメラなどのオブジェ、当時盛んだった動きの解析資料など、総数400点という大規模なもので、見どころ満載。並行して、無声映画のシネ・コンサートや、子供を対象にした関連の催しも充実している。2022年1月16日まで。


Enfin le cinéma ! 展の展示風景
© Victoria Okada


初期のアニメーション機器フェナキスティスコープの展示
© Victoria Okada

 同じくオルセー美術館では、「蒐集家シニャック」展が開幕した。点描画の代表画家として知られるポール・シニャックは、ボナール、モーリス・ドニ、ヴァロトン、ヴュイヤールなど友人の画家たちや、ドガ、モネ、セザンヌ、浮世絵など、師と仰ぐ画家の作品を生涯コレクションし続けた。展示作品の中にはマティスの点描画や、ゴッホの《二匹のニシン》、ルドンの木炭画、アンリ=エドモン・クロスの点描時代以前の作品など、めったに見ることのできないものもあり、必見。2022年2月13日まで。

https://museeduluxembourg.fr/

https://www.musee-orsay.fr/fr

◇初出=『ふらんす』2021年12月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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