インスピレーション源としてのパリ
ガルニエ宮前に設置されたJRによる「洞窟」© Droits réservés
この秋、パリにインスピレーションを得た企画が目白押しだった。
街の中などに巨大なだまし絵をインスタレーションすることで有名なアーティストJRが、ガルニエ宮のファサードに洞窟のだまし絵を設置。9月と11月の2度、他の芸術分野とのコラボレーションによるパフォーマンスが繰り広げられた。JRによると洞窟は人類が最初に芸術を創作した場所。9月には「洞窟への回帰」と銘打って、オペラとバレエのオリジンを象徴する意味を込め、だまし絵の中央にパリ・オペラ座で上演されたオペラやバレエの動画の抜粋を上映。11月には、同じだまし絵の前で、ヨーロッパ中から集まった153人のダンサーがダミアン・ジャレの振り付けによる新作『キロプテラ』を、特別創作による音響のもと20分にわたって踊った。演出はヘッドランプを持参した観客が照明に参加できるようなもので、バレエファンのみならず多くの人々が楽しんだ。
JRによる「洞窟への回帰」2023年9月 © Victoria Okada
プティ・パレでは「モデルニテのパリ1905~1925年」展が4月14日まで開催されている。「ロマン派のパリ1815~1858年」「パリ1900年スペクタクルの街」に続くパリシリーズ第三弾で、ベル・エポックから「狂乱の時代」と呼ばれた1920年代を扱っている。通常の美術史では第一次大戦前と後を明確にたて分けて論じるが、ここは、戦後が戦前からどのような影響を受け、どのように制作に取り入れられたのかを探る。モンマルトルとモンパルナスのアーティスト達を皮切りに、当時の「モデルニテ」の象徴でもあった自転車、自動車、飛行機がどのように芸術を変えたかも見せる。展覧会の目玉の一つは、1911年製のプロペラ機。合わせてカルティエが世界で初めて一般販売した男性用腕時計も。それまで男性は懐中時計を使用していたが、飛行機の操縦に便利なように発明されたものだという。最近パンテオン入りしたジョゼフィン・ベーカーなどを通じてショービジネス界も紹介されており、伝統的な展覧会の概念をさらに大きく広げた展示となっている。
「モデルニテのパリ」展エントランス © Victoria Okada
バレエ・リュスの展示 © Victoria Okada
デペルデュサン製プロペラ機(1911年)。いろいろな角度から見られるように展示されている。 © Victoria Okada
ラ・スカラ・パリでは、11月にジョージアの操り人形劇団による「アルフレドとヴィオレッタ」が上演された。アレクサンドル・デュマ・フィスの小説を
元にしたオペラ『椿姫』をさらに自由に翻案したもので詩的な動きが印象的。
人形劇『アルフレッドとヴィオレッタ』のヴィオレッタ © Irakli Sharashidze
◇初出=『ふらんす』2024年1月号