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「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

初づくしの展覧会とコンサート

 19世紀末のパリ・モンマルトルのキャバレー「シャ・ノワール」のポスターで日本でもよく知られている画家、スタンラン。来年の没後100年に向けて、ゴッホが最晩年を過ごした街としても有名なオーヴェール・シュル・オワーズのオワーズ城で、初となる大規模な回顧展が開かれている。パリと切っても切り離せないスタンランだが、実はスイス生まれで、ドイツ系の名前も厳密には「シュタインレン」と発音するらしい。展示はモンマルトル、猫、街角の光景、音楽など、彼の画家人生で重要なテーマを中心に、あまり知られていない油彩や彫刻なども見ることができる。1901年のノルウェー長期滞在時に描いた油彩・デッサンや、第一次大戦で軍事画家として戦場で描いたクロッキー、また晩年に娘のために購入した家の庭の草木を描いたパステルなどは、一見の価値あり。9月18日まで。


スタンランの回顧展のポスター

 パリの学生街サン・ミシェル界隈に佇むクリュニー美術館は、フランスの国立美術・博物館で唯一、中世に特化した施設で、『貴婦人と一角獣』のタペストリーで有名。2011年から続けられていた大規模な改装工事の最終段階として、20か月の閉鎖期間を経て、5月12日に再オープンした。15世紀の屋敷だった建物には段差が多いが、障がいのある人がどの展示室にもアクセスできる設備が整えられた。展示も、2万4千点という膨大なコレクションの中から、1000年にもわたる中世をよりわかりやすく捉えられるように、21の展示室に再編成されている。金銀細工、象牙細工やエマイユ(七宝)のコレクションも豊富。作品保護のため、多くが3か月ごとに入れ替えられるという。今回の改修では、ガロ・ロマン時代の浴場跡やゴシック様式の礼拝堂が特別に入念な修復対象となり、見違えるような様相を見せている。


改装後、再オープンしたクリュニー美術館

 最後に音楽についての話題を一つ。ロンドン在住で欧州で活躍する作曲家、藤倉大の尺八協奏曲がブルターニュ地方の首都レンヌで世界初演された。演奏は藤原道山の尺八ソロと国立ブルターニュ管弦楽団。オーケストラが尺八と共鳴し、その音色をオーラのごとく増幅するような音楽が、フランスの聴衆を魅了した。いつか日本で初演されることが楽しみな作品。


藤倉大の尺八協奏曲初演風景(尺八:藤原道山、 レミ・デュリュ指揮国立ブルターニュ管弦楽団)
© Victoria Okada

オワーズ城 https://www.chateau-auvers.fr/
クリュニー美術館 https://www.musee-moyenage.fr/

◇初出=『ふらんす』2022年7月号

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著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

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