不確定なフランスの劇場再開
昨年10月28日から再度実施されている都市封鎖。11月24日、マクロン大統領はテレビ演説で12月15日から文化活動を再開することを一旦発表。この演説で初めて文化セクターについて言及し、政府の無関心に憤っていた関係者を一時的にではあるがなだめた。しかし、12月10日のカステックス首相の声明で当面1月7日まで文化施設が引き続き閉鎖されることに。さらに夜の外出禁止はこれまでの21時にかわって20時からとなった。劇場、コンサートホール、美術館、映画館などが、11月末以降、再開に向けて一斉に動き出す一方、期待されていた罹患者数の減少が思わしくなく、再開そのものを危ぶまれる声があちこちで聞かれるようになっていた矢先の出来事。普段は年末年始休暇中の特別公演などで活気づく文化業界が、さらなる打撃を被ることになった。
10月からの外出禁止中、とくに取り沙汰されたのが書店の閉店義務だった。政府の要綱によって「生活に不可欠な物品」から除外されたため、通常の書店はもとより、スーパーなどの書店コーナーに至るまで閉鎖を余儀なくされたのだ。立ち入り禁止のテープで囲まれ照明を消された売り場の写真がいくつも報道され、関係者のさらなる憤慨を誘った。フランスでは規模を問わず書店で新譜のショーケースや俳優による朗読会などが頻繁に行われており、アーティストにとっても重要なコミュニケーションの場なのだ。結局、楽器店など他の芸術関連店舗とともに、11月28日から開店となった。
前号でもお知らせしたとおり、外出禁止中も舞台稽古や録音などは行えたことから、上演可能な状態まで仕上がっていた演目やコンサートは、インターネットおよびラジオ、テレビで無観客または関係者のみを招いて行われた。その中でも、パリ・オペラ座では、現音楽監督フィリップ・ジョルダン氏の最後のプロジェクトとなったワグナーの『四部作』がコンサート形式で録音され、年末年始の特別企画としてラジオFrance Musiqueで放送(3か月間視聴可)。広大なバスティーユ・オペラ座の舞台いっぱいに陣取ったオーケストラをバックに、現在最高峰のワグナー歌手が勢ぞろい。筆者はその場で聴いたが、稀に見る素晴らしい出来で、この状況下で芸術を死守しようとするアーティストたちの意気込みが強く感じられる上演だった。
https://www.francemusique.fr/
無観客、コンサート形式で収録されたワグナー『四部作』
© Elisa Haberer - Opéra national de Paris
◇初出=『ふらんす』2021年2月号