白水社のwebマガジン

MENU

「アクチュアリテ アート&スペクタクル」岡田Victoria朋子

ルーヴル・ランスの新しい試み

 
ルーヴル・ランスの紹介ビデオ

 フランス北部のランス(Lens)は、かつて炭鉱地帯の中心として栄え、現在は炭鉱跡がユネスコ世界遺産に登録されている。2012年12月、この地に開館したルーヴル・ランスは、メソポタミアから現代に至る人類の芸術活動を俯瞰するテーマ展覧会を主軸に据えた、新しいタイプの美術館だ。1月20日まで開催されている特別展「Exils」では、単なる「亡命」の意味にとどまらず、さまざまな視点で「故郷を離れること」を表現した作品を展示。「出発」「旅」「到着」「出会い」「別れ」といったテーマを通じて、歴史的・集団的・個人的な感情を、古代から現代までの絵画、写真、彫刻、オブジェで探る試みだ。地方密着型美術館というルーヴル・ランスの理念に基づき、この地方の住民が親しい土地を離れる際に持ち出した品々を集めたセクションもある。さらに、多くの人の共同制作で壁一面に無数のハンコが押された部屋も。これは移民局で無数の無名の人々の書類に押されるスタンプを象徴。移民問題が大きな社会的テーマとなっている今、この展覧会は非常に時宜を得たもので、多くの示唆を与えている。


カメルーンのアーティスト、バルテレミー・トゴの 『Exodus』(2013)。重い荷物が満載された荷台をか細い自転車が引いているが、いったいどこまで行けるのだろうか。後方には聖書の大洪水をテーマにしたアントニオ・カラッチの『大洪水』(左)と、レアンドロ・バッサーノの『方舟に乗り込む動物たち』(右)が見える(いずれも17世紀初め)。© Laurent Lamacz / Frédéric Lovino


マルコ・ゴディノの作品『フォーエヴァー亡命者』(2012)。この言葉を配したスタンプが展示室の壁に直接、無数に押されている。美術館のスタッフなども参加した共同制作。© Laurent Lamacz / Frédéric Lovino


クールベ『シヨンの城』(1874)。パリ・コミューンへの参加が原因でスイスに亡命を余儀なくされ、そこで亡くなったクールベが亡くなる3年前に制作した作品。この絵から「Exils」展の構想が生まれたという。© Victoria Okada


シリアのアーティスト、カレッド・ダッワーの『これが我が心』(2018-2021)。空爆にあったダマスの通りを再現した模型。実情に合わせて展示ごとに細部が変わるという。© Victoria Okada



美術館の建物はSANAA(妹島和世・西沢立衛)のデザイン。時間帯によって外壁が周囲の風景を反映し自然に溶け込む。© Victoria Okada

 ここで毎年開催されているのが、「Muse&Piano」音楽祭である。今年は9月最後の週末3日間に行われ、常に亡命者として生きた作曲家の作品や、亡命中に書かれた曲、独裁政権下で内面的な逃避手段として作られた音楽、そして天国や地獄といった究極の亡命地を表現した楽曲が取り上げられた。さらに、地下の作品運搬スペースでのリサイタル、音楽に合わせた映像マッピング、俳優との共演、旧ソビエト政権下で活動を制約されながらも、現在はフランスを本拠に世界的に活躍する女性ピアニストのドキュメンタリー上映とリサイタルなど、多彩な企画が展覧会と見事に連動していた。


音楽に合わせてリアルタイムで映像が繰り広げられる ©Victoria Okada


地下の作品搬送スペースで行われたリサイタル © Louvre-Lens - F. Iovino - copie

 パリ・オペラ座(ガルニエ宮)でオッフェンバックの『盗賊』が30年ぶりに上演された。台本に次々と登場する仮装・変装を強調した演出で、ドラァグ・クイーンとパンク調を軸に、360の衣装と150のカツラで繰り広げられる。現代の仏政府を皮肉るモノローグはなんとアレクサンドラン(十二音綴)で特別に書き下ろされたもの。来年6月から7月にかけてほとんど同じキャストで再演される。


Les Brigands (盗賊)予告ビデオ


Les Brigands (盗賊)から


盗賊の長はドラッグ・クイーン、盗賊たちの衣装はパンク調。 © Agathe Poupeney - Opera national de Paris


スペイン貴族の登場場面。豪華絢爛な舞台に、はからずも客席から拍手が。© Agathe Poupeney - Opera national de Paris

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 岡田Victoria朋子(おかだ・ヴィクトリア・ともこ)

    ソルボンヌ大学音楽学博士、同大学院客員研究員。国際音楽評論家協会理事。翻訳家

フランス関連情報

雑誌「ふらんす」最新号

ふらんす 2025年1月号

ふらんす 2025年1月号

詳しくはこちら 定期購読のご案内

白水社の新刊

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

声に出すフランス語 即答練習ドリル中級編[音声DL版]

詳しくはこちら

白水社の新刊

まいにちふれるフランス語手帳2025

まいにちふれるフランス語手帳2025

詳しくはこちら

ランキング

閉じる