夏の音楽祭と凱旋門のラッピング
夏の音楽祭は「衛生パス」の提示義務が観客数の減少を招いたため、ほとんどの催しが席数を通常の約半数に設定して運営。本誌8月号でお伝えしたラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭は、結局、通常1800席の夜のコンサートをチケットの販売状況に応じて1200席から1350席に、同じ会場で行われる朝のコンサートを980席に設定。さらに例年15以上ある会場数を大幅に制限。イタリア国境の街マントンで毎年開かれている音楽祭も、コンサートの回数そのものを約半数まで減らし、かつメインの夜のコンサートの700席を400席に絞って開催した。毎年チケットの販売率が高いことで知られている両音楽祭だが、野外で行われ屋内よりも安全性が高いにもかかわらず、満席になることは滅多になかった。
観客数の減少はどの音楽祭でも同様。とくに、普段は立ち見で密集度が高いロックやポップス系の催しでは、座席と衛生パスの義務化で観客数が大幅に減少している。中には昨年に続いて中止となったところもあり、文化芸術活動の再開がまだまだ難しいことを見せつけられた。と同時に、昨年中止・延期を余儀なくされたため今年は何が何でも開催したいとする催しも多く、例年は別の時期に開催される音楽祭が今夏に食い込んだものもあり、全体的に音楽祭ラッシュとなった。
さて、9月以降予定されている展覧会は多いが、開催は政府の発表に左右される要素が多く、定かではない。その中で、この原稿の執筆時現在(8月中旬)で100パーセント確実な秋の美術イベントがある。ポン・ヌフの梱包で知られる、現代美術家クリスト Christo の遺言となった凱旋門のラッピングだ。最初に構想されたのは1962年。2017年から準備が進められ、2020年春に実現される予定だったが、同年5月に氏が死去したため見送られていた。2万5千平米の青みがかった銀色のリサイクル可能な布と、3千メートルの赤い縄で凱旋門全体を覆う。縄の位置はクリスト自身が2019年11月に指定。氏へのオマージュとなることはもちろん、文化芸術活動の本格的な再開を象徴するイベントとして、国家文化財センター Centre des monuments nationaux(日本の重要文化財にあたる約100件の建築物を統括する文化省管轄機関)と共同開催。作業は7月半ばから24時間体制で進められた。ラッピング期間は9月18日から10月3日の2週間。
完成イメージ図(国家文化財センターのTwitterより)
© Le Centre des monuments nationaux
ラッピングされた凱旋門
◇初出=『ふらんす』2021年10月号