音楽でウクライナ支援
ロシアによるウクライナ攻撃が始まり、表現の場が失われているアーティスト支援の一環として、3月上旬、パリ市立シャトレ劇場が、フランスツアー中だったウクライナシティバレエ団を招待団体(レジデント)として受け入れると発表。同月8日には同バレエ団が出演してウクライナ支援のチャリティ公演が開かれた。パリ・オペラ座バレエ団のダンサーも加わり、最後には黄色と空色のTシャツを着た男性ダンサーとチュチュ姿の女性ダンサーが胸に手を当ててウクライナ国歌を大合唱、満杯の劇場が総立ちで支援を表した。
国家を歌うウクライナシティバレエ団のダンサーたち
© Guillaume Bontemps / Ville de Paris
ウクライナシティバレエの団員37人は、ロシアによる侵攻後フランスに残ることを希望。イダルゴ・パリ市長は要請に答え、「希望するだけの期間」のレジデンスをオファーした。同じ時期にフランスツアー中だったキエフ国立バレエ団は、侵攻開始後に最終日程を終えた後、ウクライナ難民が多く流入しているポーランドでの公演に旅立った。
ウクライナ支援のためのガラコンサートも、オペラ・コミック劇場で3月20日、パリ・オペラ座ガルニエ宮で3月27日、サン・テティエンヌで同28日など、活発に開かれている。コンサートの始めにウクライナ国歌を演奏するケースも多い。オペラ・コミックのガラコンサートは、昔から歌い継がれてきたウクライナの歌を著名なソプラノ歌手が独唱して幕を開けた。また、戦火を逃れてきたアーティストや音楽学生が好条件で練習を続けられるよう草の根レベルでの支援(音楽学校などへの受け入れ、楽器・住居無償貸与など)も広がっている。一方で、ロシア国籍のアーティストが排除されてしまう中、彼らを支援しようという動きも増えている。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2月下旬、リール郊外でパーセルの『フェアリークイーン』が上演された。オペラのインスピレーション源であるシェイクスピアの『真夏の夜の夢』の抜粋を演劇部分に取り入れ、しかも登場人物としてダイアナ妃、サッチャー首相、ジョンソン首相、女王陛下が時代を超えて「参加」。17世紀幕間劇の形態を踏襲しつつ、コミカルな要素を存分に取り入れて神話的なオペラ部分と見事な対比を見せた。上演前には、ロシアによる侵略を糾弾しウクライナへの支援を表明する声明を指揮者が朗読。主催のアトリエ・リリック・ド・トゥルコワン Atelier Lyrique de Tourcoing は1980年に創設され、フランスでの古楽隆盛に大きな役割を果たした機関。
アトリエ・リリック・ド・トゥルコワン主宰の『フェアリークイーン』
© Frédéric Iovino
◇初出=『ふらんす』2022年5月号