欧州有数の文化都市リールの活力
かつてフランドル地方の中心地として栄えたリールは、2004年度の欧州文化首都Capitale européenne de la cultureに指定されたことをきっかけに、ヨーロッパ有数の一大文化都市に変貌した。それ以降、「Lille3000」の総テーマのもと、3年ごとに異なるテーマで街全体を挙げて数か月に渡る大規模な文化イベントを開催。第6回となる今年のテーマは「ユートピア(理想郷)」。過去2年のコロナ禍を経て、2019年の前回にも増して活気に溢れている。
「ユートピア」オープニングパレードでのグラン・プラス
© maxime dufour photographies
気候変動や環境問題が叫ばれる今、「理想郷」の意味を再解釈し、人間と生き物のつながりに焦点を当てた催しが目白押しだ。人間中心の世界観ではなく、人間が自然を制するというヒエラルキーに疑問を投げかけつつ、建築のユートピア、自然と結びついた革新、森のイマジネーションなどを紹介している。
その一例として、リール美術館で開催中の「魔法の森」展がある。最近特に注目を集めている木や森だが、これらが見せる様々な様相(聖性、怖れ、治癒力、魔法など)を、絵画、写真、アニメーション、インスタレーションなどを通して紹介する。その中でも「魔法の森」と題されたセクションでは、コロー絵画に見られる牧歌的な森から、童話の「眠り姫」、ピーター・ジャクソンの映画「指輪物語」、宮崎駿のアニメ「もののけ姫」に出てくる森まで、古今東西の人々が森に見出した様々な魔力をいろいろな角度から見つめていて大変に面白い。
毎年6月第二週末に行われるリール・ピアノ・フェスティバル。今年は70人以上のアーティストが参加して開催された。コンサートの質は例年になく高く、贅沢な時間を過ごすことができた。Lille3000を意識してかどうかはわからないが、古いピアノをリサイクルして活用した楽しい企画も。何本ものジュースボトルが鍵盤と繋がっており、弾くことで世界でたったひとつのカクテルができるピアノや、やはり押す鍵盤によって異なった部位をマッサージできるリラックスシート付ピアノなどがホール前に設置され、街ゆく人を楽しませた。
世界でひとつのカクテルができる「カクテル・ピアノ」
© Victoria Okada
◇初出=『ふらんす』2022年8月号